2010-08-01から1ヶ月間の記事一覧

『狐のお屋敷』/でぇご

私が子供の頃、花巻に住むおじいさんから聞いた話です。 昔近くの村に正兵衛さんが住んでたそうです。ある日のこと村の寄り合いで夜遅くに家に帰ることになったのですが、その日に限ってなかなか家に着かなかったそうです。 夜もとっぷりとふけ、途方にくれ…

『胡桃の木』/松雄 到

死んだ曾祖母が若いころの話です。 近所に用事があって、早く帰るつもりがお酒もちょっといただいて、帰る頃にはあたりもすっかり暗くなってしまっていました。 帰り道に沿って川が流れています。さほど大きい流れでもないのですが、土手を転げ落ちるといさ…

『おもちゃ』/分家柳雲堂

「ざしきわらし、いるんですよ」 仲居は笑顔でそう言って、膳にみそ汁を置く。聞いて私は、はじめて腑に落ちた。 昨夜、奇妙なことがあった。真夜中、寝ている私の足が誰かにくすぐられた。かなりしつこい。いたずらだと思い、声を上げた。 「いいかげんにし…

『オシラ婆』/西村風池

遠野の山裾に『オシラ森』があるという。 タクシーの運転手に尋ねてみると「あそこはオシラさんだけしかないよ。遠いし、あそこに行く人はめったにいないよ」という。 それでもその『オシラ森』に行って貰った。 『オシラ様奉納』とすすけた看板が出ている。…

『とやとや鳥』/朔

昔、大関山笹谷峠には関所があった。和銅年間にはこの峠に棲む鬼が出羽からきた兵も餌食にした為、人も滅多に通らなくなった。 年貢が払えない代わりに姉妹を召し上げると言われ、やむを得ず役人を殺して都から逃げてきた旅の若者がいた。 鬼は道に不慣れな…

『猿まね』/斗田浜 仁

宿場の面影を残す街道に沿って、私は野辺送りの最後尾をぼんやりと歩いていた。 送られる主は、町で最長老のマタギだ。まだ駆け出しだった私の取材に、カモシカ猟の話、山で会った狐目女の話、大滝に住む河童の話など、虚実ごちゃ混ぜの不思議話を笑い皺一杯…

『ムカサリ』/清見ヶ原遊市

その寺は、縁結び観音として知られていた。 名を若松寺と言う。 私が若松寺に参拝に行こうと思い立ったのは、その、縁結びの力を期待したからだった。 私は何故か良縁に恵まれない。 結婚を約束した男性が亡くなったり、行方不明になったり、或いは借金が判…

『駅前のラーメン屋』/清見ヶ原遊市

一時間一本しかない電車に乗り遅れた私は、出先で食事という予定の変更を余儀なくされ、駅前の飲み屋街に入った。 夜は看板の灯りで目映い飲み屋街は、昼は静かながら雑然とした雰囲気で、こんなところに?と思うような場所に喫茶店やラーメン屋があったりす…

おわびと訂正

野蒜かなさまの投稿作品『姥捨て』を公開する際、改行位置の修正に誤りがありました。再修正いたしましたので、いま一度ご覧ください。http://d.hatena.ne.jp/michikwai/20100807/1281151910野蒜さまに、深くお詫び申し上げます。東北怪談同盟(わ)

『覚悟』/小泉あきつ

知り合いから絵を買ってくれと頼まれた。片手に乗る程の小さな絵だった。木目の美しい薄い板に描かれていた。 全身真っ黒な馬の絵だった。厚い胸を反らし、右の太い前脚を軽く曲げている。タテガミと尾は灰色で、ふさふさしている。胴には鞍は無く、顔につけ…

『患印』/夏沢眞生

「南側角部屋なので日当たりはいいですよ」 新人なのか、女性は覚束ない手つきで部屋へと招き入れた。口を開く度、胸ポケットに刺した「会川」という名札が揺れる。玄関へ足を踏み入れると、閉塞した空間特有の黴臭さが鼻を衝いた。蒸し暑さに息苦しくなる。…

『姥捨て』/野棘かな

もう30年近く前の話だが、あの頃、楢山まいりの映画が話題になったのさ。 69歳の母親役の女優と息子役の渋い俳優の迫真の演技で、一種の社会現象が起きたんだよ。どんな社会現象って、そうさね。うーん、あんた聞きたいのかい。 どうしてもかい。そうかい、…

『鬼剣舞(おにけんばい)の夜』/GIMA

父の仕事の関係で北上に越して来たのは、小学三年生のときでした。それまでは東京の都心に住んでいましたので、あまりの環境の激変に、ストレスがたまったんでしょうね。とうとう、ある夏の晩に、発作的に家を飛び出しまして。 ええ。もちろん行くあてなどあ…

『夏』/柏木翠

駅の構内から西口へ出ると、同じ県とは思えない都会があった。手を引かれながら私は、ペイデストリアンデッキの照り返しを眺めた。梅雨も終わりがけの晴れの日、植木の緑ですら輝かしかった。風がぬるりと頬をなでた。 湿り気の多い暑さは、アーケードの日陰…

『なまはげ』/崩木十弐

売れないバンドのヴォーカリスト、赤井の家には、しばらくまえから、間違いなのかイタズラなのか、妙な電話がかかってくる。 『んだずがあぁぬしさわだじゃねぐばまねが、やすひろー。わにおどあぐどやしだらおめでしょすねうろだまがおったど、やすひろー』…

『赤い面と白い面』/西村風池

隣家の綾姉ちゃんが病気になった。 昨日、山に山菜を採りに行って家に帰ってきたとたん、高熱を出して寝込んでしまったという。青白い顔色になって、こんこんと眠り続けているらしい。 綾姉ちゃんは十七歳。肌の色が白くて綺麗でとっても優しい人だ。 男兄弟…

『鎮魂曲』/三輪チサ

5年ほど前の夏、長年の夢が叶って母と東北旅行に行った。衣川はバスの中から、中尊寺は雨の中、山寺は深い霧の中だった。急な階段は濡れて滑りやすく、高齢な方々の多いツアー仲間のほとんどは、本堂から引き返しバスで待つことにしたようだった。母とも別…

『長沼古墳出土の壷』/バカボン

北上市埋蔵文化財センターのO女史は、県内ではまだ珍しかった頃の女性調査員の走りであり、現在はもうすでに中堅の研究者の一人でもある。 O女史がまだ新人だったころ、長沼古墳の地権者さんから庭を掘っていたら壷が出たので見に来て欲しいとの連絡を受けた…

『石塔の裏』/畦ノ 陽

子供の頃、花巻の辺りだったと思う。愛知から来たと告げても意味が通らず、名古屋と言って曖昧な返事をされ、尾張と言ってようやく納得されるような遠い場所だった。 山間に田畑が広がり、山際の道路に小さな商店街があった。そんな集落の中に、母が揚物屋を…

『鬼のような人が剣を携え舞っていた』/畦ノ 陽

「もう。うんざり!」 事務員だった私は、先輩の吐き捨てるような言葉にうなずいた。私の勤め先は、セクハラや嫌がらせなんて当たり前。ひねくれた人ばかりで、私達事務員は辟易していた。 ある日、酷い台風で、出払った営業が帰社もままならなくなった。な…

『沢蟹』/畦ノ 陽

子供時分、私はツマミの調達係だった。父が喜ぶので、近くの山で沢蟹を捕ったのだ。 ある日、見慣れない女の子が、私のそばにいた。私が四つん這いになっているものだから、女の子も四つん這いになって、私の手元を覗きこんでいた。 びっくりした私が、何の…

『ぼうぼう鹿』/夏沢眞生

「そんな火薬袋、どこから持ってきた?」 母が手渡した土産を、祖母は盆棚の脇に供えて言った。妹は凋んだ、古い皮製の袋を手にしている。年季物なのか、角は削れ丸みを帯びている。表に鷹羽の家紋が入っていた。 「火薬って何の?」眦を上げて私が問うと、…

『県境のトンネル』/分家柳雲堂

県境のトンネルは、もうすぐだった。夜の山道を、ヘッドライトだけが照らしている。 「ねえ、知ってる?」 ふいに、助手席から典子が訊いた。 「この先のトンネル、出るらしいのよ」 わざと押し殺したような、低い声だった。 「髪の長い女の人が、乗せてくだ…

『水遊び』/朔

小さい頃は死んだ祖母に、「お盆の時は水遊びすんでねぇ。むこうさ連れていかれっからな」と言われたものだ。 科学で溢れた世に何をいうのかと、当時は聞き流していた。 祖母がいうには、「向こうの通りの●●さんとこの××君が一昨年、引き波さ連れてかれたん…

『グラス・アイ』/夏沢眞生

製品試作の擦り合わせで、広野へ行ってくれと指示されたのは昨日のことだ。帰京前に叔母の家へ寄ろうと決めてすぐ、私は海岸線沿いを走るタクシーの中にいた。窓外の、月のない夜に海が黒く溶けている。見つめていると、意識ごと体を引きこまれそうだった。 …

『子けし様』/朔

自分の身代わりに紙や木でかたどった人形を形代という。昔はこの形代を神仏の化身「けし神様」として崇め、子供を護るけし神様は「子けし様」といい、お守りとして子に持たせていた風習があった。 江戸時代、仙台藩の農村でも享保から天保と続いた飢饉は深刻…

『お椀』/高家あさひ

あれは小学四年生の夏休みのこと。私は祖父母の家に預けられていた。同年代の遊び相手が近くにおらず、私は毎日退屈していた。 ある日の午後、私は青く波打つ田んぼの間の道を自転車で走って川まで行った。しかし河原に下りてみても、ひとりではやることも思…

『宴の後』/皿一

3年前の夏である。 ある研究会に出席するため、むつ市内に宿泊した。 研究会の前日、ホテルにてチェックインの手続きをおこなっていたところ、大学時代の友人Nに出会った。彼は出張でむつ市を訪れており、偶然同じホテルに宿泊していた。 卒業後十数年ぶり…

『嗤う猫』/斗田浜 仁

「ずいぶんと島のこと詳しいんでねぇの」 民宿のオバサンが居間兼食堂で晩酌に付きあってくれた。漁師の旦那は寝るのが早い。オバサンの隣には大きな黒猫が寝ている。 「猫神社があるから犬を飼わないんじゃないんです。島で犬を飼わない話と猫神社の話は全…

『飛田の夜の事』/高柴三聞

ええ、子供の声がするって。そりゃ、遊廓にそんな子供の声なんて変ですよぉ。 この時間に飛田の遊廓に子供なんているわけございませんよ。あぁ、どうしても気になるなら本当のことを聞かして差し上げましょう。知りませんよ。うふふ。 お客さん、私の肌が奇…