2010-08-01から1ヶ月間の記事一覧

『八乙女の処刑場』/新崎

八乙女は交通事故が多発しています。昔、処刑場だったそうです。よく打首を行ったとか。けれど、そもそも八乙女は国道4号線が通っているので、交通量はとても多いのです。だから、交通量が多いだけと言われればそれまでなのですが。八乙女は仙台市内にあり…

『叔父の思い出』/丸山政也

昭和三十年代の終わり頃のことだ。私は小学校の低学年だった。 私の両親は共働きで年中忙しくしていた。子供よりも仕事。幼心にもそういう家族の暗黙の了解のようなものを私は感じ取っていた。夏休みだというのに、どこにも出掛けようとしない私を見るにみか…

『避雷針』/藤本桂悟

日本には針供養などという行事があります。 何故、そんな事をする必要があるのでしょうか。その由来を私は知りませんが、モノにも魂が宿っていることは確かです。 十数年ほど前のことでしたでしょうか、私は毎日雷の夢を見るようになりました。夢の中では激…

『アオダイショウ』/藤本桂悟

高校三年の夏休みのことです。盛岡市立図書館で受験勉強をしようと思った私は高松の池の畔を自転車で走っていました。すると突然、道路脇の草むらから一匹のアオダイショウがするするっと這い出てきました。よけようとしたはずみで私は近くの電柱に激突して…

『路線バス デンデラ行き』/ヒサスエ

見舞いの帰り。市立病院前からバスに乗った。乗車したのは私と老人1人。私は後部座席の右端。老人は運転席のすぐ後ろ。老人の背中に視線を飛ばすと、老人はくるりと振り返った。皺枯れた顔に不釣り合いな、ゴロリとした目。すぼんだ口元をニィと上げた。私…

『沼袋のお姫様』/akiyan

…滝沢村の南端にある沼袋地区は雫石川が流れていて、近くに四百年以上前に掘られた鹿妻穴堰があります。子供の頃、学校から帰ってきて家の畑に母がいないと、自転車に乗って急いで田んぼに母を探しに行きました。沼袋に行くまでは長く暗い杉林のトンネルを抜…

お詫びと訂正

昨日アップいたしました神沼三平太さまの作品名を、誤って『炊き上げ』と表記してしまいました。正しくは『焚き上げ』です。作者の神沼さま、および関係者の皆さまに大変ご迷惑をおかけいたしました。お詫びの上、訂正させていただきます。また、新崎さまの…

『東野物語外伝』/忍聖

「お客さん。一人で東京から、みちのくのこんな山奥まで、ありがとうございます。大変でしたでしょう。さ、どうぞビールをおつぎいたしましょう。 ええ、そうですね、東野物語には東野の人間に都合の悪い事は書いてないですね。ええ、物語には書いて無い、東…

『山寺にて』/芙蓉

その男に気づいたのは、芭蕉の句に由来するせみ塚の上、仁王門を過ぎたあたりだった。 間に若いカップルをはさんで、五十段くらい下を歩いている。 ベージュのポロシャツに同系色のチノパン、それにグレーのジャケットをはおったいでたちは、けっしてとっぴ…

『河童捕獲許可証』/花房 肇

遠野の観光協会では「河童捕獲許可証」なるものを発行してくれる。 観光客向けの一種の洒落の商品である。 その日、事務所に許可証が欲しいと訪ねてきた男は、観光客というより学者風であった。 愛想のいい受付の女性が対応し、男は差し出された許可証の申込…

お詫びと訂正

本日アップいたしましたヒサスエさまの作品名を、誤って『さっちゃん』と表記してしまいました。正しくは『よっちゃん』です。作者のヒサスエさま、および関係者の皆さまに大変ご迷惑をおかけいたしました。お詫びの上、訂正させていただきます。 http://d.h…

『よっちゃん』/ヒサスエ

父方は女系家族だ。父に姉が4人。姉達には女の子が2人ずつ、8人の従姉。私の年子の兄が唯一の男の子。穏やかな性格で、従姉が集まると一緒に遊んでいたが、物足りなくなるのか、途中から奥座敷で、1人プラモデルやパズルに興じていた。 『座敷わらすの相…

『鈴』/ヒサスエ

「魔除けだがら」 祖父は私のランドセルにピンポン球大の鈴を結びつけた。動くと、カラカラとも、シャリシャリとも聞こえる軽やかな音を奏でた。その音に誘われてか、時々、私の後ろについて来るモノがあった。姿は見えない、小動物の息づかいに似た気配。学…

『ともだち』/国東

黒い生き物のような死に物のようなものが出ると言います。川面から目の上だけを出してただぬらぬらと、赤い橋のある、上流を眺めていると言います。 噂を聞いて朝も昼も夜も何度も、寝床を学校を抜け出して会いに行くのですが、未だ目的は果たせていません。…

『メドヴェージの蒼い馬』/岩里藁人

モスクワの画商ポタポフは、一枚の油絵を前に腕組みをしていた。先日、曽祖父の遺品整理に訪れた青年から購入したものである。菜食主義者だという神経質そうなその青年は、これはシャガールの作だと主張し、一攫千金を夢見ていたようだった。しかし、ポタポ…

『命乞い』/鬼頭ちる

「お婆ちゃん、この辺りでも昔、空から蛙が降ってきたんだってね。詳しく聞かせてよ」 東京から来たという若いライターは、馴れ馴れしく老婆にインタビューを始めました。 「そうですね、確かに以前は蛙・鮒・ナマズなんかがよく落ちてきましたよ。昔本当に…

『竿仕舞い』/花房 肇

渓流釣りが趣味の私は、週末ともなると盛岡から車で1時間ばかりの源流域へと足を運んでいた。 その日も新しいポイントを求め、狭い河原更に川の上流へと釣行していた。 ふと見ると鬱蒼とした木々の間に幅3尺ほどの細流がある。もしかすると上流に堰や淵が…

『社童子』/花房 肇

「社童子(やしろわらし)」って知ってる? 知らないって? TVの「座敷わらしの出る宿」の放送をぼんやり見ていた俺の息子が食いついてきた。子供のころ近所の神社の境内で俺を含めて4人でかくれんぼをしていたんだ。 そこは裏山の一本道の頂上にある神社…

『虫の知らせ』/akiyan

…七年前の冬に七つ離れた弟が亡くなった時の話です。弟は中学、高校時代は明るくて友達も多い方でした。社会人になってからも楽しそうに働いていますたが、数年後にうつ病にかかって自ら命を断ってしまいました。…その年は寒い冬でした。安代に住む祖母は弟…

『鬼の語り部』/屋敷あずさ

――山で出会った娘は若者の家で暮らしはじめ、やがて子供が生まれました。ところが生まれた子の頭には小さな角が生えていたのです。驚いた二人は、きらきらと目を輝かせ無邪気に笑う子を見ながら、このことが村人に知られたらこの子はきっと酷い目に遭うだろ…

『中で潰れる感触』/クジラマク

短大のゼミ合宿の帰り、Kの車で合宿地に訪れていた私達五人は帰路の中、Fの提案で噂の廃墟に立ち寄ることになりました。目的地の山の中腹の空き地に車を止め、銘々分かれFのいう廃墟を探しますが、辺りは雑木林だけでそれらしきものは見つかりません。諦…

『大叔父のはなし。』/マツフミ オウカン

我が大叔父によると,おばけを見るのはそれほどたいしたことではないらしい。 むしろ「見でもしゃねっぷりするほうがおどけでない」(見ても知らないふりをする方が大変だ)のだそうだ。はなしを聞くと,どうやら大叔父は,子供の頃に見た座敷童子から現在に…

『夷酋列像』/新熊昇

(再び松前に帰ることはあるのだろうか?) 波響は津軽海峡に降りしきる雪を眺めながら、遙か蝦夷地に心を馳せていた。 いま立つのは陸奥国伊達郡梁川、彼の地に描き置いてきたのは駆け抜ける風と森の息吹、雪の白さと祭りの日に熊を屠ってコタンの神に捧げ…

『レール』/葦原崇貴

その冬はやけに雪が少なく、削られた車道から顔を出す線路がよく見えた。廃止されて十年、仙台市電の線路はアスファルトによって覆い隠されていたが、毎年この時季になるとスパイクタイヤに道路が削られ、こうして顔を覗かせるのだ。その姿に、どこか未練が…

『天蚕』/小泉あきつ

「ちょっと、いいかしら」 下校途中の小学生のあたし達を呼び止めたのは、この辺りでは見かけない派手な装いの女だった。髪は短く真っ赤な口紅をしていた。大きなサングラスを外すと、意外に若い顔だった。東京の大学に行ってしまったあたしのお姉ちゃんと、…

『理想の女』/丸山政也

青函連絡船<洞爺丸>の1/100スケールのミニチュアを、一月以上つきっきりになって作り上げていた。洞爺丸のミニチュアで市販されているものは少ない。それはあの1954年9月に起きた悲劇のためであろうことは想像に難くなかった。1155人もの命…

『菩提寺』/分家柳雲堂

中学生のころ、友人たちと百物語をした。言いだしたのは桜田と遠藤。場所も二人が決めた。三好の家がお寺だったので、嫌がる本人を無理に説き伏せたのだ。庫裏の奥の広間がそれで、夜、七時にはみんな集まった。しんとした中、各々、怖い話をはじめる。あっ…

『寒戸の女』/高橋史絵

あの日も風が烈しく騒いでいた。 黄昏時は人の心を弱くして名を呼ばう声に不思議とも思わず振り返る。黒々と した木陰を作る梨の樹の下。とまる朱塗りの女籠の戸が音もなく開き中から差し 招く黄金色の扇に誘われ私は草履を脱ぎ捨て籠に収まった。 あれから…

『息子さんからの絵葉書』/高柴三聞

私の勤めている老人ホームに東北出身の入居者さんがいました。もう亡くなってから数年経つ。無口で色白のかわいらしいおばあさんでした。うちのホームでは大体家族が頻繁に来られる方は少なく、亡くなるまで家族が全く顔を出さないということもざらにあった…

『さとがえり』/高家あさひ

私には六歳年上の姉がひとりいる。彼女は去年の春に結婚した。しかし私はその相手に一度も会ったことがなかった。それについては、東京に出たまま、なかなか里帰りしなかった私もいけないのだけれども、結局ちゃんとした式を挙げなかった姉のせいでも多少は…