2010-07-01から1ヶ月間の記事一覧

『村上くんの話』/黒縁眼鏡

お前、マグマ大使って知ってる? 手塚治虫の漫画。俺らが生まれる十年以上前の話だし、知らねえか。主人公の村上少年とロケット人間マグマ大使が……まあ、あとで検索してみろ。 小一ぐらいの頃の話なんだけど、じいちゃんいただろ、うち。 ある日学校から帰っ…

『臨界』/崩木十弐

そのむかし大量殺人があり廃村となった部落が、事件当時のまま今も残っている――。 青森県の「杉沢村伝説」が流布したのは十年程前、工藤君が高校生のときだった。なんでも、その地に踏みこんで無事もどった例はない……とのことだ。若者達はこぞって噂の真偽を…

『大八駒』/新熊昇

慶応の末から明治のはじめ頃までのごく短いあいだ、天童の町で夜更け奇妙な物の怪たちの姿が酔漢に目撃された。それは、実際の対局に使われるくらいの将棋の駒が、『ひょこ回り』のように、銘の彫られた底面を地面に付けた王将を先頭に飛車、角、金、銀、桂…

『神にしか解けない知恵の輪』/烏羽玉タロウ

岩手県藤沢町在住のパズル作家花山環は完壁な知恵の輪を作りたいと思っていた。知恵の輪は解けなければ知恵の輪ではない。しかし花山が求めた物は人では解けない知恵の輪、もし解けるとしても神にしか解けない知恵の輪、人が聞けば冗談にしか受け取れないだ…

『白装束』/本間進

ざくっ、ざくっ。雪の降り積もった弘前公園を歩くと、自分の足音しか聞こえない。 高校生だった僕は、当時公園内にあった図書館からの帰り道、うつむきながら歩いていた。夕方だというのに、吹雪で薄暗い。本丸近くにある桜の大木や古井戸の跡も、すっかり雪…

『浅春の家』/西村風池

私が遠野に訪れたのは三月初めの浅春だった。寒風に吹かれながら里山を散策していると、小高い丘の上に豪壮な茅葺きの曲がり家を見つけた。『見学自由』とある。傍で小さくヒヒン、と鳴き声がした。馬小屋か。だが小屋の中には藁ばかりが散乱して馬の姿は見…

『神代杉の鏡台』/烏羽玉タロウ

「ほう、これが噂の神代杉の鏡台ですか」嶋岡直は鳥海山で産出された二千年以上も前の神代杉で出来た鏡台を前にどっかりと腰を下ろした。馴染みの骨董品屋から、とんだ品物を掴まされた、もし良かったらお宅は骨董品の中でも変わった品を求める傾向にあるの…

お詫びと訂正

みどりこさまの投稿作品『秋の夕暮れ』を公開する際、途中で切れた状態でアップしてしまいました。訂正いたしましたので、いま一度ご覧ください。http://d.hatena.ne.jp/michikwai/20100726/1280151976みどりこさまに、深くお詫び申し上げます。 東北怪談同盟…

みちのく怪談ブックフェア@丸善仙台アエル店

丸善仙台アエル店さまでも、荒蝦夷with東雅夫「みちのく怪談ブックフェア」が8月下旬まで開催されます! ぜひ足をお運びください! 丸善 仙台アエル店 http://www.maruzen.co.jp/corp/shop/aer.html 仙台市青葉区中央1-3-1 AER1階

『上里遺跡の権蔵』/バカボン

この話は県北地方の埋蔵文化財関係者の間では誰もが知っている有名な逸話である。 二戸市の上里遺跡は、JR東北新幹線二戸駅の南側の洪積世低位段丘上に立地し、縄文時代から中世の城館跡、近世まで各時代の痕跡が確認されている複合遺跡である。 二戸市教…

『きつね村に訪れたときのこと』/泉 律

私はあの夏の日を忘れないだろう。 家族と共に東北へと帰省したときの事だった。高速に乗り、東京へと帰る予定だったのだが、そのときの私はハンドルを切り、一般道のほうへと向かわせたのだ。 突然に高速道路を降りてしまったので家族も驚いていた。私もな…

『ついてくる』/地獄熊ベルモンド

この辺りは昔と変わっていないなあ。中学からはずっと東京にいたけど、就職してまたこっちで暮らすようになったことには運命めいたものを感じるよ。もちろん幼なじみの君と再会したことにもね。だけどこの土地からは離れたほうがいいんじゃないか、そんな気…

『秋の夕暮れ』/みどりこ

傾き始めたと思ったら、夕日はあっという間に沈んでしまった。それが合図だったかのように風が出てきて、薄闇の中で木々がザワザワと揺れ始める。子供の頃に父がしてくれた昔話を思い出したのは、そんなシチュエーションがよく似ていたからかもしれない。 ――…

『松川達磨』/湯菜岸 時也

木下老人は酒瓶を片手に、桜が満開に咲く石段を上っていった。この時期、わざと彼岸を避けて、人知れず仙台に行くのが習慣となっている。其処に心ならずも斬った男の墓があった。彼が藩士だった久保田藩は、戊辰戦争時に参戦し、発足したばかりの明治政府に…

『おやしらず』/湯菜岸 時也

私の仕事は化粧品の訪問販売、これは岩手方面の得意先を回っている時の話です。顧客に新商品のスキンクリームを勧めていると、急に親知らずが痛み出した。生憎、山奥の農村なので、歯科医院は近辺にない。この様子に見かねた得意先の奥さんが、助け舟を出し…

『十二湖で』/小泉あきつ

ブナの原生林で有名な白神山地の西には、十二湖と呼ばれる場所がある。そこには、様々な大きさの三十三個の湖沼があるらしい。 私は観光に来ていた。お昼時に飛び込んだ古ぼけた食堂は、観光客で賑わっていた。「驚いたね」 隣から、白髪混じりの男が声を掛…

『万吉転がし』/かもめ

方々に、狐に纏わる話は数多くある。この三陸の島にも、狐に化かされて死に到った男の話が、実しやかに言い伝えられている。ただ、これは実話だとのことだが、私はその男の墓の所在を知らない。 島の北部一帯は山で、建物といえば、千年の歴史があるという、…

『私流・鳴り砂物語り』/かもめ

昼には真夏陽に焦がされたように黒々と横たわっていた海だった。夜になっても海は冷めず、微温湯のような海面に漂いながら、釣り糸を垂れていた。寝苦しく、暑さ凌ぎに夜の海に出た。さすがに時折吹き抜ける風は涼しい。眼の前数十メートルぐらいのところに…

『若松城』/湯菜岸 時也

岩手の工芸品、南部鉄器は砂を固めた鋳型に東北の風景などの絵柄を凹凸をつけて描き、それに溶けた鉄を流して製造されます。それが出来ると『金気止め』という工程で、ゆっくりと炭火で焼き錆び止めをして、それをヤスリで研磨して、仕上げに色を塗り、それ…

『宵待ちの調べ』/紅侘助

久々に昼夜「幕引かず」で行われる「通り神楽」が別当家で行われると聞き、始めてこの眼で間近に「裏舞」を目にすることができると、喜び勇んで大償の地に足を運んだ。 陽の落ちる時分に別当家に到着すると、漸く神を舞殿に招く「打ち鳴らし」が開始されたば…

『山のカミサマ』/紅侘助

動けない。体が全くいうことを聞かない。 足下には体長十センチを超えるヤマナメクジの死骸が二つ、落ち葉と体液にまみれて横たわっている。私が踏み潰したものだ。 小枝や落ち葉を踏む感触とは異なる違和感に踏み出した足を除けると、目に飛び込んで来たの…

『狭間にて』/紅侘助

「舞殿」を設えた早池峰神社の社務所内は、真冬にも拘わらず熱気に溢れていた。岳神楽の正月舞初めは、神楽目当ての人のみならず初詣客も手伝って大変な賑わいだった。 幾度となく頂戴した御神酒のせいだけではあるまい。私は火照った体を少し冷まそうと、御…

みちのく怪談コンテスト募集要項

【募集要項】 〈みちのく〉をテーマとした未発表のオリジナル怪談作品(商業誌・商業サイトに発表済みの作品は不可)。本文800字以内(タイトルは含めず、20字×40行の書式で。行アケは1行で換算。スペース、句読点も1文字として数えます。また、文…

『八甲田山の怪』/バカボン

私の先輩の川村氏は東京出身で、車中泊しながら、車で全国の遺跡巡りをするのが好きな人だった。4月下旬の休日に青森県青森市の三内丸山遺跡に行くこと思い付き、十和田湖から八甲田山を抜け最短距離で青森市に抜けることにした。が、峠を越えようとしたあ…

『椿に託す』/森明日香

この椿には、花が咲きません。 つぼみが膨らみはじめ、ああ、今年は花を見られると喜んだのも束の間、ぽたりと頭を落とすのです。 その様子は、まるで乙和(おとわ)様が流す涙のよう。 え。乙和様をご存知ない。ははあ。あなたは、よそからいらっしゃったの…

『昔話』/いわん

「むかしむかし、このあたりには『雨風祭』っちう祭があってな。今年は台風が来ねように、米ばたくさん取れますようにって、神様に生け贄捧げてお祈りするっちうのがあったんじゃ。生け贄いうてもな、人の形に編んだおっきな藁人形さこしらえて、それを村の…

『そこにいた』/いわん

昔から、人を驚かせるのが好きで。 嘘をついては周りを驚かせていた。 まぁ、周りの人間も、だいたいそんな自分の言動に気づいていて。 「あぁ、また、あいつか」みたいに思われていた感じだった。 そんな周りを驚かせるために、嘘はより巧妙に、より真実味…

『カーテンの向こう側』/いわん

父の仕事の都合で引っ越すことになった。 仙台市七北田。東北は初めてだったが、もともとごみごみとした地元の環境があまり好きではなかったので、気兼ねなく引っ越した。 友人には、「へぇ仙台ねぇ。みちのくって、道あるの?」とからかわれた。 引っ越し後…

〈みちのく怪談コンテスト〉の夏、始まる!

梅雨明けと共に、いよいよ〈みちのく怪談コンテスト〉の夏が始まりました!東雅夫さんから「〈みちのく怪談プロジェクト〉やってみよう!」とメールをいただいて7か月。やっとここまで辿り着いたかと、スタッフ一同、ほっとひと息です。……が、本番はこれか…

高橋克彦先生、審査員に決定!

秘密裏に交渉を続けていた「みちのく怪談コンテスト」第三の審査員について、いよいよ発表いたします。高橋克彦先生に、快諾をいただきました! 新たなる〈みちのく〉像への期待 高橋克彦 『遠野物語』を通じて、さまざまなイメージが、岩手の地に、東北の地…