第3回「みちのく怪談コンテスト」選考結果を発表いたします。

第3回「みちのく怪談コンテスト」


以下のように各賞が決定いたしました。

大 賞:『ジン』/鬼頭ちる

優秀賞: 『雪人』/真木真道
優秀賞: 『夜釣り』/湯菜岸時也


佳作:『書痴(とも)有り、深淵(えんぽう)より来たる』/岩里藁人
佳作:『海へ還る』/オギ
佳作:『二年目の夏』/剣先あやめ
佳作:『狐立』/のらぬこ
佳作:『故郷の味』/深田亨
佳作:『鉄道ノ延伸セサリシ事』/深田亨
佳作:『桐箱』/須藤茜
佳作:『芋煮怪』/樽地蔵太
佳作:『天童咲分(さきわけ)駒』/新熊昇
佳作:『崖の絵巻』/君島慧是

高橋克彦賞:『もう一人の僕』/三和
赤坂憲雄賞:『お蚕さま』/須藤茜
東雅夫賞: 『等高線』/国東
東北怪談同盟賞:『あなたさま、あなたさま』/こなこ
荒蝦夷賞: 『みちのくストリップ・ティーズ』/庵堂ちふう
赤べこ賞: 戸田書店山形店・笠原店長による選出(笠原店長本日欠席のため、後日、追って発表いたします)



各受賞者の方々には、事務局より、追ってご連絡をさせていただきます。

受賞なさった皆様方、そしてご投稿いただいたすべての皆様方に御礼申し上げます。

東北怪談同盟

『みちのく怪談コンテスト2010傑作選』本日発売!!

皆さま、ご無沙汰しております。


たいへん長らくお待たせいたしました。諸事情により発売が遅れておりました『みちのく怪談コンテスト2010傑作選』を、(有)荒蝦夷より発売することができました。

東北怪談同盟が誇る絵師、金子富之画伯による表紙が目印。
皆さまにご投稿いただいた作品の中から、「みちのく怪談」の原点たる柳田国男先生の『遠野物語』にあやかって、『遠野物語』原典と同じ119篇を収録しております。


それに加え、高橋克彦赤坂憲雄東雅夫の審査員3氏による選考会レポート、東北怪談同盟・黒木あるじ×鷲羽大介の対談による顛末記も収録。
価格は税込みで1575円となっております。


ネットでお買い上げの場合は、hontoネットストアをご利用ください。
http://honto.jp/netstore/pd-book_25615308.html


店頭でお買上げの場合は、こちらの荒蝦夷発行出版物取扱書店でお求めください。
http://homepage2.nifty.com/araemishi/shoten.html
全国の紀伊國屋書店ジュンク堂書店丸善各店でもお買い求めいただけます。
店頭にない場合は「仙台店から取り寄せ」の旨、各店のご担当者にお伝えください。


『みちのく怪談コンテスト2010傑作選』を、どうぞよろしくお願いします。


(わ)

アップロード終了のお知らせ

皆さまには、本年度も「みちのく怪談コンテスト」にご参加いただき、まことにありがとうございました。
以上をもちまして、ご応募いただいた作品すべてのアップロードを完了いたしました。

選考や受賞の詳細につきましては、追って発表いたします。

今年もありがとうございました!
(わ)

まるす『棺への手紙』

 死化粧を施され、おだやかな表情で棺の中に横たわる姑の「納棺の義」は、粛々と進んでいた。
「おばあちゃんに『ありがとう』って書くのよ。できるでしょ?」
 保育園で、ひらがなを覚え始めた息子の峻に、そう言い聞かせてから、由美は自分の便箋に向き合い「もっと親孝行がしたかったです」と、サラリと書いた。ちいさな便箋に故人への想いを綴り、自分の髪の毛を一本挟み込んで折り畳む、それを人形を象った封筒に入れて棺に納めるのが、この地方の風習である。
 5年前、峻が生まれたのをきっかけに、一家は、夫の実家(母親が一人暮らしをしている東北地方のT市)に移り住んだ。同居には抵抗もあった由美だったが、一緒に暮らしてみると、姑は孫の面倒をよく見てくれる上に、家事のほとんどを賄ってくれた。おかげで彼女は、外に出て働き、新しい友人達と遊ぶ自分の時間を持つことも出来た。
 一年前、姑は脳梗塞で倒れ半身不随となった。その時も姑は、自宅療養ではなく、由美の勧める介護施設への入所を選んでくれた。そして『いずれは不自由な体になった姑を引き取らなければならない』という由美の憂鬱な心中を察したかのように、そのまま施設で逝ってくれたのだ。「逝ってくれた」というのは正直な気持ちだったが、もちろん彼女はそのような素振りは少しも見せず、姑の死を悼む良き嫁として如才無く振る舞った。
「かいた」
 峻が差し出してきた便箋を「ちゃんと書けたの?」と言いながら受け取ると、ハラリと何かが落ちた。由美の黒い喪服の胸元に止まったのは、一本の白髪だった。
 便箋に目を落とすと、そこには、たどたどしい文字で『おめえもおんなずこどさえんだ』と、あった。
 三度読み直して、それが『お前も、同じ事をされるぞ』という意味だと分かった由美に「ばあちゃんが、いってらよ」と無邪気な笑顔で、息子が話しかけてきた。

村岡好文『まがい物』

 ねぶたが見たい、と息子にせがまれた。
 青森までは遠いぞ、と言うと、町内に来るからそれを見たいという。そして一枚のチラシを持ってきた。「ねぶた来る」と大書してあり、武者絵らしきものが描かれてあった。日時は今日の午後一時。もう間もなくだ。
 私は苦笑した。チラシの字も絵も子供の殴り書きのようにへたくそだ。どうせまがい物に違いない。しかし病弱なうえ何に対しても消極的な息子が珍しく目を輝かせているのを見ると、まがい物でも何でも見せてやろうという気になった。
 外に出た。町内のどこに来るのかはわからない。私は真昼の暑い中、人通りのない道を息子とぶらぶら歩き始めた。と、どこからか声が聞こえてきた。ねぶた独特の、あのかけ声だ。息子が私の手を引っ張るようにしてその声の方へ足を速めた。
 るぁっせるァ、るぁっせるァ・・・
角を曲がると急に声が大きく響いた。十数人が神輿のようなものを引きつつ叫んでいた。
 ああ、やはりまがい物だ、と私は思った。彼らが引いているのがねぶたということらしいが、どう見てもできそこないの張子だ。そしてハネトたちも異様だった。目を吊り上げ歯を剥き出して、何かに怒りをぶつけているような踊り方だった。
 るぁっせるァ、るぁっせるァ・・・
彼らは喚き散らし滅茶苦茶に踊り狂う。こんなまがい物を見てもしようがない、と私は思い、息子を連れて帰ろうとした。だがふと見ると、息子は恍惚として、しかもわずかに手足を動かしていた。私は戸惑った。
 不意に息子がハネトの中に駆け込んでいった。咄嗟に伸ばした私の手は空を掴んだ。息子は跳ねた。あのひ弱な子とは思えないほどに。目を吊り上げ歯を剥き出して、何かに憎悪をかきたてられているかのように。
 るぁっせるァ、るぁっせるァ・・・
まがい物のねぶたは角を曲がって消えた。

日野光里『ゆきぼら』

春の雪解け近くになると、おかしな雪洞(せつどう)ができることがある。
人の形の洞だ。
まるで、ベスビオス火山の後に見られる人型の空間のように、重なる雪の中、ぽっかりと穴があいてるのだ。
それを、地元の人は「ゆきぼら」と呼ぶ。
「誰かいたの?」と問えば、首を振られる。
「これは人の形に化けた獣のあとだよ」だそうだ。
でも、獣だって抜けた痕がない。
「まあ、そういうものだから」
呟かれ、そういうものかと思うのだ。
ある冬、しんしんと積もった雪景色の夜。
ふわんっと、雪の中ほどあたりに明かりが灯った。
人の形の洞が内側から光っている。
ああ、ああやって「ゆきぼら」はできるのだと見ていた。
やがて、ぼんぼりのようなその光は、ふわりと雪を抜け、ゆらゆらと白い森へ帰っていく。
あれでは穴はないはずだと、私は思って見送った。

大河原朗『帳面』

 紳士服売りの婆さんは懐に手を入れて青ざめた。商売人の命がないのだ。
「頭には全部入っている。でも他の商売人に万が一でも拾われたら大変だ」
 それには東北の村々の家族構成から祝い事、法事の時期まで細かに書いてある。家々を周り歩くとき、何気ない会話からそれとなく聞き出したものだ。今でいう顧客名簿だが、婆さんはただ「帳面」と呼んでいた。
 この先の村で来年学校を出る息子がいる。器量が良いから東京へでも進学するに違いない。そうなれば一張羅も必要になろう。そう計算したときは、まだ帳面は持っていた。
 来た道を早足で戻る。棒きれで道ばたの草を払う。枯れた用水路を覗き込む。そうこうしてようやく帳面を見つけた。それが沢の入り口の大きな石の上だったので婆さんは怪しんだ。腰掛けるにはちょうどいいが、こんなところで休んだ覚えはない。帳面と自分の着物を結んでいた紐はざっくりと切れている。
 目的の村に着くと酷く騒がしい。駐在所の巡査なのか、笛を吹きながら村の男たちに何やら指図している。遠巻きに見ている女たちの輪に入ると、あそこの家の息子が急にバタンと倒れた、まだ身体は温かいのに息をしていない、などと囁き合っている。勉強のしすぎかね、と聞こえたとき、婆さんはそっとその場を離れ、村から立ち去った。
「よそ者だからな。変な因縁つけられても困るし、売るもんも売れなくなった」
 婆さんは、そういいながらも、懐の帳面をもう誰にも渡すまいかと抱きかかえていた。そして、心底悔やんだ。
 あの息子の名前がこすり消されていた。何者かに見られたとしたら、償いきれる過ちではない。
 婆さんが商売人の命を捨てた、これが理由である。