2011-12-01から1ヶ月間の記事一覧

アップロード終了のお知らせ

本年も「みちのく怪談コンテスト」にご応募いただき、まことにありがとうございました。以上をもちまして、合計265本すべてのアップロードが終了いたしました。応募してくださった皆さま、読んでくださった皆さまに厚く御礼申し上げます。

蛙『ともだち』

久しぶりに君の事を思い出した。 ずっと昔、この川で魚を捕まえておく囲みを一緒に作った僕だ。君は小さいくせに、大きな石ころを軽々と持ち上げる力持ちだったな。そのくせ、やたらに大人を怖がって、話し声が聞こえると、橋の下にある穴へ隠れていたね。君…

ピエール・西岡『猫神ゆらゆら』

僕は宮城県は西部の田舎町に住んでいる。ここの地元では昔から猫神信仰があって、それは島に伝わる猫神信仰とはかなり違うものだ。 何が違うかと言うと、まず巫女さんがいる事。それに御神体が猫頭のミイラだ、と言う事。 祖父に訊くと、何でも遠い昔にこの…

ピエール・西岡『飛鳥井姫インザドリーム』

「これ、飛鳥井姫じゃないか?」 葦原がまじまじと廊下の壁に掛けられている絵に顔を寄せている。 「おい葦原。恥ずかしいからやめとけ」 庄内が辺りを気にしながら誰もいない事を確認すると空かさず彼の横に並んだ。 二人して、ほぅと息を吐いた。 「飛鳥井…

ピエール・西岡『友人の歯が綺麗だった』

「この近くに、処刑場があるんだ。知ってるか?」 と、友人英介が唐突に言うもんだから僕はふかしてた煙草に咽てしまった。 「知らないよ。急に何の話かと思えば」 「ここはさぁ、打ち首する所だったんだ」 辺りを見回してから英介が、すっと先の何かを指差…

告鳥友紀『リフトに乗る』

岩木山を横目に見て滑走する爽快さを熱く語る友にほだされ、スキーは初心者レベルの私であったが、じゃあ行ってみようという気になった。おまけに頂上からは海が見えるというではないか。 休暇をとり現地に到着した時はスキー日和といっていいほどの天候だっ…

大谷雪菜『老木の記憶』

Y町の鬼穴古墳群は、四方を山や田畑の緑色に囲まれている。まるで時の流れにその身をうずめるかのように、しんと息を潜めている。 友人の家から二十分ほど自転車を走らせた私は、疲れた足を休めようと畦道に自転車を止め、古墳脇の老木にもたれ掛かった。今…

深野ちかる『片目の魚』

M子さんが迷い込んだ山道の朽ちかけた山門がありました。門の上に、がらんどうの鐘楼が載っています。くぐると、境内に細い川が枯れていました。奥にちいさなお堂があります。廃寺かと思っていたのに、ちいさな灯りがともっていました。 お堂の観音開きの扉…

只助『糞くらえ』

適当な木を見つけ、根本に向かって放尿しました。大人二人で抱きかかえてもまだ余るほど、幹の太い木でした。それほど立派な木ですから、かけごたえも一入あり、私は嬉々としてありったけを注ぎました。 事が済むと、じーっと誰かに見られている気がしました…

日野光里『裏灯篭流し』

灯篭流しと言えば、なくなった人の名前を書いて水辺に灯篭を流す儀式だ。 私の町にも、そうやって流す祭りが毎年ある。 けれど、幼い頃の記憶の1ページには、不思議な灯篭流しの場面があった。 大抵は、みんな海へ注ぐ河口近くで、一斉に灯篭を流す。 けれ…

君島慧是『家出の雪花』

篤が家を飛びだしたのは土曜の午後だった。いつも気を利かせる婆ちゃんが「団子作るからクルミ磨ってくれねが」と頼む声が聴こえたが振り返らなかった。洟を啜りながら一本道を駆けて森に入ると、この時期には珍しい雪がちらついた。原生林に降る白は冬に逆…

加楽幽明『月が見ている』

山菜採りの帰りです。後肢をけがしたたぬきを保護しました。家に連れ帰り一週間ばかりけがの経過を見て、山に返しました。山に戻るとき、たぬきは何度もこちらを振り返っては、お辞儀でもするみたいに頭をこくこくと振るのが印象的でした。 その日を境に夜道…

日野光里『女人禁制』

私の中学校は崖の面がむきだしの山が、すぐ近くにあり、それが窓からずっと見えていた。 景勝地と言えないこともないが、山育ちの人間にとっては、よくある光景のひとつだ。 その山に神社があり、毎年男だけの祭りがある。 祭りだけではなく、その神社周辺の…

日野光里『こねる』

とにかくたくさんんの人が入院していた。 ケガをした人もお産をした人も、区別なく寝かせられている。 具合が悪くて入院していた私はお父さんが付き添ってくれてベッドに横になっていた。 ちょうど向い側のベッドでは、お産を終えたばかりの女の人と赤ちゃん…

沼利 鴻『雪の夜 〜年の瀬の盛岡で〜』

私のほかに、客は誰もいなかった。 外には小雪がちらつき、店内には幽かにホワイトクリスマスが流れている。 頬に風を感じると、入口の扉が僅かに開いた。 雪が運ばれ、ひらひらと舞い込んだ。 それきり、ぱたりと扉は閉ざされてしまった。 「雪女かな」 「…

いいだろう『キャバレーみちのく』

いつの間にかポケットに入っていた葉書に導かれ、優は東北新幹線の上りホームに立っていた。多くの人で溢れかえっているのにホームは妙に静かだった。皆青白い顔で俯き黙って立っている。その時後から肩を叩かれた。 振り返ると仲良しの怜が立っていた。 「…

こまつまつこ『障子に差す影』

まだ夜の道が真っ暗だった頃、子供だった祖母は、お遣いで隣町に行くのがとても嫌だったそうだ。隣町といっても祖母の住む村からは畑しかない一本道を、数時間かけて歩かなければならないような場所にある。加えて徒歩が主流の時代である。祖母はその道を通…

こまつまつこ『塀の向こう』

私は小学生の夏休みを叔父夫婦の家で過ごした。叔父の住む村は昔、養蚕で暮らしを立てていた名残で、縁起物だと言って天井に繭を吊るしていたのを覚えている。 初めこそあちこち物珍しく遊びまわったが、所詮は何もない田舎である。川遊びや虫取りにもすぐに…

勝山 海百合『山の人魚』

(これは叔父から聞いた話だけれど、叔父はテホ語り、いわゆるほら吹きだったので、眉に唾をつけて聞くように) 人魚というものは山にもいる。しかしどこだりにいるものでもない。山の奥の、水がこんこんと湧き、冬でも凍らないような沢にいるものだ。 トラ…

こまつまつこ『糠の中』

母は漬物が得意で、我が家の食卓にはよく浅漬けや古漬けが並びます。全て自宅で漬けたもので、台所には大きな瓶に糠床が張ってあります。私は、どうせなら庭に畑を作って漬物用の野菜を育てればいいと言ったことがありましたが、その時の母はあまりいい顔を…

敬志『日に二回』

深夜、岡山から増援で来ていた警官三人が、釜石から大槌へ向かう海岸線をパトロールしていると、海辺に大勢の人影を見た。その時期、夜でも家族を捜している人もいたのだが 、念の為に浜に降り声を掛けた。 目の前で人影は消えた。 パトロールは五人に増えた…

深野ちかる『数えるなら左から』

Kさんの祖母は特殊な能力があったそうだ。人の相談にのってアドバイスをし、ありがたがられたらしい。父親や叔父たちを苛つかせたのは、祖母が能力を金儲けにしなかったからではないかとKさんは思っていた。 臨終の床で祖母は中学生だったKさんに遺言を残…

多麻乃 美須々『遠くから歌声が聞こえる』

遠くから歌声がする。漁が終わり小さな船に乗って港に向かう時だった。じいだと思ったけれど、そうじゃない。女の人の声のようだから。兄いに「誰か歌っているよ」と言っても、相手にされない。とても恐ろしくて、低い声で、大勢の女の人が歌っているのに。…

井上徳也『漂着』

爽やかな風が椰子の葉を揺らしている。空は高く、青い。いつもは地元や日本の観光客で溢れている砂浜。だが今は波の音が聞こえるだけだ。大きなものは撤去されたようだが、それでも波打ち際には小さな瓦礫や木片、日本語の看板が残っている。長い距離を超え…

早夜『側に……』

「 左肩が痛み出し、首が回らなくなって半年が経つ。多忙さを理由に今日まで過ごしてきたが、痛みの度合いは軽減するどころか日毎に増すばかりで、いよいよ心配になってきた。取引先での昼食会にて、先方の部長から“左肩に男の人が憑り付いていますよ”と指摘…

敬志『老人踊り』

獅子踊りは自分の町だけに在るのでは無いと初めて知ったのは、子供会で盛岡まで踊りに行った小二の時だった。 それでも山ひとつ町ひとつ跨げば笛も振りも違ってくる。おら達の方が格好イイよなと流されたままの文治がよく言っていた。 川の瓦礫が片付いた頃…

国東『ひとむくどり』

ちょうど目的地手前の電線に黒い血と膿の充実したイボに似たかたまりが寄り添って並んでいる。むくどりだ。路面はすっかり艶黒に濡れていたが糞の雨はまだ止む気配もなく。 道を変え学校前を抜けようとしたが西向きの道には糞の横断幕がかかっていた。マリオ…

ルリコ『河童の首くくり』

夜半に、勝手口から遠慮がちに昆布問屋の使用人が声を掛けた。畳を2枚、早急に、できたら夜が明けるまでに取り替えて欲しいという。私は父と職人二人と一緒に秋田駅前の店から千秋公園を斜に横切って大八車で畳を運んだ。初めて行く立派な屋敷だった。高い…

みどりこ『白雪姫』

ドアを開けると、千春が立っていた。こちらを見つめ、かわいらしく笑っている。俺は目も合わせずに顔をそむけた。 笑えるはずないのに。亭主はいつまでたっても無職で、酒の量ばかりが増えているのだから。 千春は会社の後輩だった。艶やかな黒髪と、積もり…

角蝉『赤い権現様』

夏のとある午後、私はヤブを掻き分けて小高い塚の斜面を登っていた。すっかり周囲は拓けてしまったが、ここだけはまだ森の一部がまだ残っている。 子供のころ、同じにようにここを登ったことがある。目的は、てっぺんにある古い祠。ちょっとした肝試しだった…