2012-11-01から1ヶ月間の記事一覧

紅 侘助『真説・黒塚』

到頭ご覧になり申したか。 如何にも、その累々たる白骨の山は、凡て此の媼の殺めた人の物に御座います。 遍く人というものは、するなと云われれば、それをせずには居られぬ難儀な性分を抱えて居ります。御坊に見てはならぬと申したのは、屹度確かめずには居…

妙蓮寺桜子『PTSD』

都内の或る大学病院心療内科に勤務するS医師の元に、心的外傷後ストレス障害、いわゆるPTSDに悩まされている患者がいたという。震災時の津波映像を動画サイトで繰り返し見過ぎたことで、同じことがいつ自分の身に起こるかわかったものではないと、戦々…

紅 侘助『ツガル』

今やオタクの聖地アキバとしてのイメージがすっかり定着してしまったこの街も、一昔前は電気街として賑わっていたことを覚えておられる方もいらっしゃることでしょう。 駅の電気街口側も大きなインテリジェントビルが建って様変わりしてしまいましたが、あの…

おおつきらい『あの山のお婆さん。』

母親には、絶対に子供だけでは登ってはいけないと言われていたが、言われるほど登りたくなるもの。僕は弟と一緒に、近所の山に登ることにした。遊びに行くと嘘をつき、自転車で二人向かうと、程なくその山へと着いた。さあ、登ろうとしたとき、弟が古い、半…

福永緑丸『液体』

M美さんの実家には、オシラサマがある。80cmくらいの高さの薄っぺらいもので、綺麗な布で包まれた中身はただの木の板のようだ。 二年前、おじいさんが亡くなって遺産相続で揉めていた頃、それは起こった。 「赤と紫のオシラサマ、神棚の隅に立てて置いてあ…

福永緑丸『まいね』

ねぶたを運行する大通りは、開催中の夜は通行止めになるが、最終日は昼の運行のみなので、夜の大通りは通行止め解除となる。 Nさんは、後夜祭の花火大会とは逆方向へ車を走らせていた。さっきまではねぶたが運行していた路上。日も暮れ始め、この活気も今日…

福永緑丸『赤川のケンボ』

津軽弁で「ろー」という表現がある。これは「ほら、見てみろ」という意味で、目的物を指して言う場合と、人や物を指して馬鹿にする場合と二通りある。男女問わず年配の人はよく使う。「れー」という場合もあるがこれも同義である。 青森市に赤川という川があ…

湯菜岸時也『友人の研究』

どうも神は、人が領域に近づくのを好まないらしい。「東北へ取材旅行へ出る」と言ったきり、十日も音信不通だと、大学の友達の彼女に泣きつかれた。民俗学を専攻した奴の研究テーマは《農作業と邪神》だという。 取材している『はんこたんな』は農作業の時、…

湯菜岸時也『夜釣り』

七月、喧騒と夜毎に味わう熱帯夜に嫌気がさし、東京から抜け出して、久々に気のあった仲間と夜釣りを楽しもうと、釣り船に乗り込んだ。 汗で濡れたTシャツが、涼やかな潮風に吹かれて心地よい。 岩手の海は世界三大漁場に数えられるほど豊かだが、リアス式…

湯菜岸時也『新島八重は思った』

会津では昔、円蔵寺の虚空蔵堂を建立する際、突然出現した牛の群が材木を運ぶのを手助けしたという伝説が語り継がれている。 その苦役に、さすがの牛達もバタバタと倒れたが、一頭の赤牛《あかべこ》だけは最後までへこたれなかったという。 彼女は会津城の…

萬暮雨(まんぼう)『柿』

宅急便が届いた。訝しさに俺は首を捻った。住所は山形県の某村。俺の生まれ故郷。送り主は幼馴染。今年の夏に帰郷した俺は彼を訪ね、そして、取り返しのつかぬことをした。 なぜあんなことを言ってしまったのか。農業が嫌で村を飛び出したくせに、どっしりと…

萬暮雨(まんぼう)『みきちゃん』

村に、みきちゃんという女の子がいた。どんな漢字をあてるのか知らないほど小さい頃の話だ。ある夕暮れ、みきちゃんがふっといなくなってしまった。 みきちゃんの家の柿の木がたわわに実をつけていたから、秋に違いない。小さな草履のかたっぽが、ぽつんと木…

萬暮雨(まんぼう)『和田君』

夜中に、ふと尿意を覚えて広本君は眼を覚ました。 周りを見回す。大きな和室に敷布団をしき詰めての、文字通りの雑魚寝。卒業旅行も最終日ともなれば、さすがに中学生の体力も限界に近づき、枕投げをする者もエロ本をこっそり読む者もなく、消灯時間になるや…

いわん『河童』

なんだこれ。僕は今の状況に呆れていた。 目の前にはカッパ淵があり、そこで「実際に河童と遭遇している」のに、戸惑いも恐怖感も何もあったものではなかったのだ。 河童も、この状況に困惑しているようだ。 ……原因は、同行した僕の友人だ。 友人は、アメリ…

いわん『風鈴』

あれは何年前だったろうか。ある年の初夏、平泉を訪れようと電車に揺られていた時に、その風景が窓から飛び込んできた。 駅のホームの天井から、無数の南部風鈴が垂れ下がっていた。あまりにも幻想的な風景。我を忘れて見入ってしまった。 後で調べたところ…

いわん『川辺』

僕は、幼少の頃、広瀬川で溺れた。 一緒にいた姉の証言によると、広瀬川の澱みを覗き込んでいると思ったら、そのまま頭から落ちたらしい。姉はあまりの事態に硬直し、声も発せられなかったそうだ。父が飛び込んで助けてくれたらしいが、僕の記憶にあるのは、…

応青『……もうし、そちの人(残欠)』

この吹雪、海も騒ぐ暮れ時にどちらへ―と定蔵に声かけたのは若い女のようであった。駒は竹のボロ三味線、雨雪よけに古木綿で包み背負っての門付け旅、行くあてもなかったが、ただ下北へと陸羽街道を野辺地あたりで外れ、海辺伝いに脇道をとった途中であった。…

受付開始しました!

第三回「みちのく怪談コンテスト」の募集受付を、本日の午後一時より開始いたしました!宛先とフォーマットはこちらをご参照ください。第三回みちのく怪談コンテスト 募集要項 - みちのく怪談コンテスト締め切りは2013年2月3日(日)午前10時30分まで。応募…