2010-09-17から1日間の記事一覧

『赤面症』/蒼 隼大

忌まわしい、あの記憶から逃れるために私は上京を決意した。両親は都会での一人暮らしを心配したが、私の苦しみを誰よりも知っているが故に、反対はしなかった。 誰一人として私を知る者のない生活は開放感に溢れ、まるで生まれ変わったような気分だった。だ…

『隠し子』/さとうゆう

村の東に立つ古い木には、大きなウロがあった。ウロはどこかに通じているらしかった。古い木のあたりでときどき、子どもがいなくなり、時を置いて、帰ってくることがあった。 見当のつかない帰宅を待つ親たちは、「隠された」と嘆いた。再び我が子に会うとき…

『な思ひ出でそ』/青木美土里

来るなかれ、っていう意味なんですって。 地名の由来を力なく語る妻の声を耳にしながら、来し方に山を臨む。随分遠くまでやって来たつもりだったが、迫るような山を見ているといつも遠近感が狂う。 新居で誕生した娘はあまり活発なほうではなく、家の中で人…