2013-02-17から1日間の記事一覧

天羽孔明『こけし沼』

三十年ほど前に他界した、明治生まれの祖父の故郷は、岩手から山形へ抜ける県道の途中にある小さな集落だったそうです。 その集落から北東へと向かう林道の入口には二本の大きな楠が立ち、その二本を繋ぐようにして太い注連縄が渡らされ、それより奥へは妄り…

オギ『霧の朝』

幼い頃、父の車に乗って、ずいぶん遠くまで行ったことがあります。父は一人でよく喋りよく笑い、お母さんはどこ、という疑問をさし挟む隙もないほどでした。色々な場所に行き、車の中で眠るのは楽しかったけれど、父の様子がおかしいことは子供の目にも明ら…

オギ『海へ還る』

北の海辺で人魚を拾った。ずいぶんと昔の話だ。 人魚は私に、鱗を剥いでくれとねだった。鱗をすべて剥いでしまえば人になれるなどと、一体誰に吹きこまれたのか。人魚の鱗は高く売れる。私は人魚を殺さぬように、少しずつその鱗を剥いだ。 むろん脚など現れ…