『神代杉の鏡台』/烏羽玉タロウ

 「ほう、これが噂の神代杉の鏡台ですか」嶋岡直は鳥海山で産出された二千年以上も前の神代杉で出来た鏡台を前にどっかりと腰を下ろした。馴染みの骨董品屋から、とんだ品物を掴まされた、もし良かったらお宅は骨董品の中でも変わった品を求める傾向にあるので一度見に来ないか、格安で譲るよと連絡が入ったのは昨日の事で、鏡台を欲しいとは思わなかったが変わった品と言う言葉に釣られて、今日早速その品物を見に来た次第である。神代杉の美しさは木目と言い黒み掛かった艶と言い申し分なかった。問題は鏡の方である。いや厳密には問題があるのは神代杉か鏡なのかは人知を超えた領域に属する事ゆえ何とも言い様がないのだが。嶋岡は鏡に向かうと店主に言われた通り鏡に向かって話し始めた。「お嬢ちゃん、お嬢ちゃん、こんにちわ。あなたの新しい主人になるかも知れない嶋岡直と言います。もしよかったら、おじちゃんとお話しませんか?」鏡はしばらくの沈黙の後か細い声で返事した。「新しい主人・・・。確かにお主は私の主人にふさわしい。それはおまえの様な鬼とも人間ともつかぬ獣の様な輩の心を照らす事に我が存在の真価が問われるという物。生涯我を手放すな。お前の心を死ぬまで照らそうぞ」嶋岡は真っ青な顔になると続けて何事かを話し始めようとした鏡に向かって「待ってくれ!頼む!待ってくれ!生涯あなた様を神に誓って手放しません!だからこれ以上は話さないで下さい」鏡は嶋岡の心の中にいったい何を見抜いたのか?嶋岡はどれ程の罪を重ねてきたのか?それは嶋岡と鏡のみの知る所。嶋岡は店主に支払いを済ませ軽トラックの荷台に鏡台を乗せると無言で帰っていった。その帰り道の事であった。嶋岡は電柱に突っ込み生涯を閉じた。鏡台は無傷で荷台に括りつけたままだった。ただの事故だったのか、それとも・・・。