「震災」を超えて〜みちのく怪談前夜2011・座談会〜

[東北怪談同盟座談会]

第2回みちのく怪談コンテスト、始動!

黒木あるじ(作家・映像作家、http://twitter.com/blackwood_RG本の通販ストア - 本、雑誌の通販ならhonto
土方正志(荒蝦夷代表、)
鷲羽大介(会社員・せんだい文学塾運営委員会会長、id:washburn1975


土方 さて、いよいよ第2回みちのく怪談コンテストが始まりました。ホントは昨年と同じく6月スタート予定だったのですが、ご存じの通り3月11日の東日本大震災でどうにもならなくなって、遅れてしまいました。震災半年を期してなんとかスタートできたわけだけれど、それにしてもみんなえらい目に遭ったよね。
黒木 だいたい、荒蝦夷がとんでもないことになっていたじゃないですか。
土方 事務所の建物はなんとか無事だったんだけれど、室内は本棚が倒れて資料や本が散乱、デスクトップのパソコンが宙を飛んで、割れた食器やガラスで足の踏み場もない。僕の自宅マンションは大規模半壊で、即、立ち入り禁止。社員の一人の宮城県北の実家は揺れにより全壊。一人暮らしのお母さんが避難所や知人の家を転々としていたり、一緒に避難生活を送っていたアルバイトの女の子のお父さんが宮城県気仙沼市津波に呑まれて2週間後に遺体で発見されたり、大混乱だった。仙台では業務再開も覚束ないと山形に一時避難して、黒木くんの会社のみなさんにも随分お世話になったよね。仙台に自宅や事務所を見つけて徐々に仙台へと戻り始めたのが6月に入ってからかな。仙台でなんとか完全に業務を再開できたのは8月のはじめだった。ウチはそんな具合だったんだけれど、みんなそれぞれ大変だったじゃない。
黒木 僕は山形でしたから、自宅や会社は無事だったのですが、ライフラインが全てストップして、最初の夜は車中泊でした。とにかく物資不足には参りましたね。ガソリンや灯油もなかなか手に入らなかった。それでも山形はまだなんとかなったのですが、母の実家が岩手県釜石市なんです。
土方 釜石市鵜住居だったっけ。津波の被害の大きかったところだよね。
黒木 そう。2週間くらい経って、叔父とはじめて行きました。一人暮らしの祖母は盛岡にいて無事だったのですが、家屋はダメでした。1階を津波が突き抜けて、クルマや船が突っ込んでいた。親戚はみんな避難所に入っていました。津波に流された親戚が二人いて、一人は遺体が上がりましたが、一人はいまも行方不明のままです。子どものころからよく遊びに行っていたものですから、あの変わり果てた光景はショックでしたよ。
鷲羽 僕は家族と一緒に仙台の南、宮城県岩沼市に暮らしています。岩沼も沿岸は大きな被害を受けたのですが、僕の家は内陸だったので助かりました。ただ、職場が仙台の沿岸近くなんですよ。こちらも幸い津波の被害は免れましたが、あの地震のときは職場にいました。建材メーカの工場勤務なのですが、とにかくスゴかった。資材がみんな倒壊して、死ぬかと思いました。翌日からはとにかく復旧、というか後片付けです。操業再開どころじゃない。やがて本社から応援チームが来てくれて、やっとなんとかなるかと思えるまでにおよそひと月かかったのですが、そこに4月8日の余震です。またみんな倒壊した。応援チーム、呆然として帰っちゃいました(笑)。岩沼から仙台まで、通勤は沿岸の道路なんです。壊滅してしまった見慣れた景色をクルマの窓から見るのはつらかったですね。あと、僕の家は大丈夫でも、友人や知人には家を流された人たちがたくさんいたので残骸の整理をお手伝いしたり、そんな毎日でした。
土方 最初のころはみんななかなか連絡も取れなかった。電話が繋がっても、それぞれ大変だったから、顔を合わせる機会がなかったりね。だんだん落ち着いてきて、山形や仙台で集ったりできるようになったのは五月くらいからかな。東雅夫さんたちが〈みち怪〉支援のために〈ふるさと怪談トークライブ〉を立ち上げてくれて、ホントに心強かったんだけれど、それに対してこちらからなかなかリアクションが取れなくて歯がゆい思いもした。
黒木 〈ふるさと怪談トークライブ〉はほんとうにありがたかったですね。いくら〈みち怪〉を建て直したくても、僕らだけではまだまだ時間がかかったかもしれない。〈ふるさと怪談トークライブ〉が始まって、そうか、みんな応援してくれているんだ、僕らも早く立ち直らなきゃって思えて、その気持ちが原動力になったところがあります。
土方 黒木くんは大阪、僕は札幌へと〈ふるさと怪談トークライブ〉に参加させていただきました。それから、日本橋高島屋では、いまや東北怪談同盟のメンバーでもある山形県上山市の妖怪絵師・金子富之くんの個展の会場にお邪魔してお話させていただいた。どの会場でも、みなさん熱心に〈みちのく怪談〉と被災地の話に耳を傾けてくださって……。
黒木 京極夏彦さん揮毫の「みちのく怪談支援募金箱」には感激しました!
鷲羽 あと、山形の〈みちのく怪談トークライブ〉もありましたよ。〈ふるさと怪談トークライブ〉の姉妹企画として立ち上げました。
土方 この〈みちのく怪談トークライブ〉は、仙台でも近日開催予定です。詳細はこのブログでご案内する予定です。
黒木 それにしても、ほんとうに全国の怪談まわりのみなさんに助けていただきました。
鷲羽 みなさん、ありがとうございました。

土方 というわけで、第2回なんだけれど、詳細は募集要項をご確認いただくとして、特に変更点はありますか。
鷲羽 えーと、募集要項ではなく投稿作品のブログへのアップに関してなのですが、昨年は毎晩やっていたんですね。仕事が終わって帰宅してからせっせとアップしていました。ところが、最終日間近に投稿作品が多すぎて大混乱となって、ご迷惑をおかけしてしまった。そこで、今回は毎週金曜日に1週間分をまとめてアップさせていただきたいと思います。
黒木 みんな他に仕事があってやっているものですから、ごめんなさい。
土方 あと、テーマに関しては昨年同様「広く〈みちのく〉をテーマとした作品」です。「広く〈みちのく〉をテーマ」とするとはどういうことなのかは、昨年の開催にあたってこのブログで公開した記事をご参照いただきたいのですが、ただ、今回はどうしても東日本大震災に関連して慰霊や鎮魂がテーマとして避けて通れないケースが出てくるんじゃなでしょうか。なにせ、2万人もの死者・行方不明者を出した〈みちのく〉ですからね。怪談文芸と慰霊や鎮魂との関係については東さんの『なぜ怪談は百年ごとに流行るのか』(学研新書)や、東さんが編集長を務めておられる怪談専門誌『幽』15号(メディア・ファクトリー)の特集「震災と怪談文芸」、http://blog.bk1.jp/genyo/をご参照いただければと思います。
黒木 なにしろ〈みちのく怪談〉ですからね。〈みちのく〉と冠する以上、今年の開催にあたっては、どうしても東日本大震災の影響は避けては通れません。
鷲羽 黒木くんも震災怪談を書いているよね。
黒木 うん、被災地を歩くと、いろいろと不思議な話が語られ始めているんだよ。
土方 僕らも怪談取材ではないけれど、現地で不思議な話を聞くよ。遺族の人たちにそんな話を聞くと、鎮魂って死者の魂を鎮めるだけのものではなくて、生き残った人たちが自分の気持ちを鎮めるために語るって側面もあるように感じたりもするな
黒木 ただ、〈みちのく怪談〉イコール〈震災怪談〉や〈鎮魂怪談〉ではないってことはお伝えしておかないと。
鷲羽 もちろんです。これは東北の被災地で暮らす僕らの思いがそうであるというだけであって、昨年と同様に、みなさんの自由な感覚で切り取った、こわくておもしろいそれぞれの〈みちのく怪談〉をどんどんお寄せください。
土方 それから、これまた東日本大震災で遅れてしまった『第1回みちのく怪談傑作選』も刊行します。ただ、もうちょっと時間がかかるかな。詳細はこのブログでご報告していければと思います。
黒木 なにはともあれ、あの日から半年で〈みちのく怪談コンテスト〉が始動しました。他にもいろいろとイベントなども企画したいと思います。
鷲羽 僕らの暮らす東北は、落ち着きを取り戻しつつはありますが、まだまだ混乱が続いています。僕らもまだ気持ちの整理がついていないところがある。いろいろと不手際もあるかもしれませんが、みなさん、なにとぞ宜しくお願いします。