「みちのく怪談コンテスト2011」宣言!

ほんとうにおもしろいのはここからだ 高橋克彦

〈みちのく怪談コンテスト〉第2回の開催である。このようなコンテストは、回を重ねるごとにおもしろくなってくる。第1回は、主催者にしても投稿者にしても、どのようなコンテストになるか、どのような結果になるか、わからないままに手探りで進まざるを得ない。そこがまた新しい試みのおもしろさではあるのだが、第1回を終えるとコンテストの道筋が、性格が見えるようになる。ほんとうにおもしろいのはここからなのだ。その意味で、今回はどのような作品が寄せられるのか、期待している。それだけ選考の楽しみも大きい。さらに、東日本大震災を経ての第2回である。もちろんコンテストそのものは大震災をテーマとして実施されるものではない。昨年と同様、広く「みちのく」をテーマとしたコンテストである。それにしても、今回の場合、この「みちのく」と東日本大震災のイメージは被ってしまうところが大きいかもしれない。大震災をテーマとした作品も寄せられることだろう。800字と短いなかで大震災の悲劇をどのように料理してくれるのか。また、東北人ばかりではない書き手のみなさんが、今回の大震災をどのように捉えたのかも興味深い。楽しみに待っている。

高橋克彦[たかはし・かつひこ]


小説家。昭和22(1947)年、岩手県釜石市生まれ。早稲田大学商学部卒業。東北を舞台にした歴史小説をはじめ、推理小説怪奇小説、伝奇小説などを多彩に執筆。主な作品に『写楽殺人事件』(江戸川乱歩賞)、『総門谷』(吉川英治文学新人賞)、『北斎殺人事件』(日本推理作家協会賞)、『緋い記憶』(直木賞)、『火怨』(吉川英治文学賞)があり、ほかに『悪魔のトリル』『星の塔』『私の骨』など怪談・ホラー作品も多数。『炎立つ』と『時宗』は、NHK大河ドラマの原作ともなった。

新たなる〈みちのく〉への道行きを 赤坂憲雄

〈3・11〉を経て、みちのく/東北のイメージは大きく変わった。地震により、津波により、そして原発事故により、暴力的に変化を余儀なくされた。この変化はこれからも続くだろう。着地点は、いまはまだ見えない。悲劇と苦悩を刻印された果てに、みちのく/東北はどのようなイメージを抱え込むことになるのか。誰にもわかりはしない。みちのく/東北には、恐山信仰や出羽三山信仰など、現世と来世がきわどくせめぎあう宗教的民俗知がある。あるいは『遠野物語』的な、あの世とこの世のあわいを認める民俗知がある。「みちのく怪談」にこと寄せれば、怪異と交感する知恵とでもいえようか。ここにひとつの道があるのではないか。そんな予感を覚えている。もちろん、昨年もここで触れたように「みちのく」は単に地域の呼称ではない。「みちのく」は遍く在る。災厄の年の、それぞれの内なる「みちのく」が見たい。このコンテストが、新たなる「みちのく」への道行きとならんことを。

赤坂憲雄[あかさか・のりお]

昭和28(1953)年、東京都生まれ。東京大学文学部卒。学習院大学教授、福島県立博物館館長、遠野市立遠野文化研究センター所長、東日本大震災復興構想会議委員。民俗学をベースに東北の文化や歴史を掘り起こす「東北学」を提唱、注目を集める。「東北学」の活動により、河北新報社の河北文化賞(2008年)や宮沢賢治学会のイーハトーブ賞(2003年)などを受賞。平成19(2007)年には著書『岡本太郎の見た日本』によって芸術選奨文部科学大臣賞とドゥマゴ文学賞を受賞。著書に『異人論序説』、『境界の発生』、『東西/南北考』、『山野河海まんだら』、『海の精神史』、『いま、地域から』、『東北知の鉱脈』、『旅学的な文体』、『婆のいざない 地域学へ』、他多数。

「感じたるまま」の怪談を 東雅夫

 震災から一夜明けた3月12日の夜半、荒蝦夷の土方正志代表から、私の携帯に着信があった。仙台の事務所も、スタッフの自宅も、惨憺たるありさま、寝泊まりする場所にも事欠く現状だという。あまりのことに、ただただ相槌を打つばかりの私に向かって、どこか吹っ切れたような口調で、土方氏は力強く宣言した。「こうなったらね、みちのく怪談コンテスト、意地でも今年、第2回をやりますよ。鎮魂のためにも、やらなくちゃ!」
 意気に感ずるとは、このことだ。一も二もなく全面的に賛同して、為し得るかぎりの協力を約束した。あれから、ちょうど半年を経て、いよいよ第2回の募集が始まる。
 2011年の現在、怪談という立脚点から〈みちのく〉について何かを考え、書き表わそうとするとき、それぞれの書き手が、それぞれの置かれた立場で、今回の震災と真摯に向き合うことは不可避だろう。とはいえ、だからといって、直接的に震災とか鎮魂に関わるモチーフに、こだわる必要はまったくない。今このときだからこそ視えてくる〈みちのく〉の〈怪談〉を「感じたるまま」(柳田國男遠野物語』序文より)に書いて欲しいと切望する次第である。

東雅夫[ひがし・まさお]

アンソロジスト・文芸評論家。神奈川県横須賀市生まれ。早稲田大学文学部卒。『幻想文学』編集長を1982年の創刊から2003年の終刊まで務め、現在は怪談専門誌『幽』(メディアファクトリー)編集長。ちくま文庫版「文豪怪談傑作選」シリーズやポプラ文庫版『文豪てのひら怪談』などアンソロジストとして、あるいは『怪談文芸ハンドブック』(メディアファクトリー)や『江戸東京 怪談文学散歩』(角川選書)など評論家としての著作も数多い。オンライン書店ビーケーワンポプラ社と提携しての「てのひら怪談」ムーヴメントなども展開中。『遠野物語と怪談の時代』(角川選書)により、第64回日本推理作家協会賞・評論部門を受賞。
公式サイト(幻妖ブックブログ) http://blog.bk1.jp/genyo/