いわん『河童』

 なんだこれ。僕は今の状況に呆れていた。
 目の前にはカッパ淵があり、そこで「実際に河童と遭遇している」のに、戸惑いも恐怖感も何もあったものではなかったのだ。
 河童も、この状況に困惑しているようだ。
 ……原因は、同行した僕の友人だ。
 友人は、アメリカからの留学生。「本物の妖怪が見たい!」という事で、「河童がいると言われているところはあるよ」と、遠野はカッパ淵まで連れてきたのだ。
 もちろん、冗談半分に連れてきたのだが、本当に河童が出た。出てきたのだ。その出来事に僕は恐怖で腰を抜かし、河童も僕の尻子玉を狙ったのだろう。しかし、その時、
 「Wow! Kappa!」
 という友人の歓喜の声で我に返った。河童もキョトンと友人を見た。
 友人は、そんな状況を気にもせずに、持っていたデジタル一眼レフで河童の写真を撮りまくっている。かなり興奮していた。
 この状況に対して、河童も混乱しているように見えた。正直、僕もどう対応したら良いかわからない。その困惑に気づかず、友人は溢れんばかりの笑顔で河童を写真に収める。
 河童に、
 「You are Great!」
 とかなんとか言っているが、河童に英語が通じるわけもないだろう。持参したキュウリまで渡している。ついには僕にカメラを渡し、河童と友人のツーショットを撮ることに。なんだ、お前のその底抜けの笑顔とサムズアップは。河童明らかに困ってるだろ。
 さすがにいたたまれなくなったのか、河童は、カッパ淵に逃げるように飛び込んで姿を消した。その河童の後ろ姿に僕は同情した。
 その後、友人から「河童は本当にいるんだね!妖怪は実在するんだな!案内してくれてありがとう!日本大好き!」と思いっきりハグされて、全身が痛くなった。