樽地蔵太『おいしいですか』

 おいしいですか、ずんだ餅。私も好きなんですよ、ここのずんだセット。今は全国で売ってますけど、やはり地元のは格別ですね。私が初めてずんだ餅を食べたのは十歳の頃で、お盆に仙台の親戚の家に行った時です。はい、元はこっちの人間じゃないんです。その時一口で気に入りまして。出されたものはすぐ平らげた挙げ句、仏壇の前のお供えに沢山あるのを見つけて、ねだったんです。まあよく食う子供でした。そうしたら、「帰って来る人」が手を付けたら後で皆で食べるから待て、と。でも偶々家に私だけになって。一つだけならと食べて、でもやっぱりもう一つと手を伸ばしたら……手が餅の上で動かなくなったんです。あれっと思って目を凝らして、ゾッとしました。幾つもの小さな白い手が、私の手を掴んでいたんです。ヒモのような手首が仏壇の方へと伸びていました。とても怖かった……のですが、恥ずかしながら食い意地が勝ちまして……。思い切り振り払うと、手は呆気なく消えました。後ろめたさが見せた幻だったんでしょうけど、結局全部食べてしまって、親にひどく怒られました。それ以来、時々ずんだ餅が無性に食べたくなるんです。特にお盆の時期は。それでとうとう、こっちに住むまでになりました。それなのに。だめなんです。ずんだの味が、しないんです。すごく食べたくて食べたくて、こうして口にするのに、全然味がしないんです、ずっと。それ、おいしいですか。そうですか……。

 話を聞いて納得がいった。彼のずんだ餅に半透明の小さな手が何本も伸びてきて、彼より先に餅を掴んで何かを奪っていくのを、不思議に思っていたのだ。そして、その手の一本が僕の皿の前で留まっていた理由もなんとなく察し、皿を少し前に差し出してみた。小さな手は嬉しそうに大きく開いてから、僕の餅を掴んで、消えた。残った餅を食べてみたが、やはりとてもおいしいずんだ餅だった。