クジラマク『まるでドリフのコント』

 片手鍋が落ちてきたんです。遊び場の見晴台のある小山に群生する杉林の中から。小学五年の僕ら三人は唖然として。見上げても密集した杉葉が夕暮れを隠してるだけで。また、甲高い金属音がして今度は両手鍋が。それから断続的に様々な形の鍋が森の中を落下していきます。僕らはそれらを追い、はしゃいでいます。「あれに当たったら面白くね」Cの提案に躊躇なく行動を起こしたのが生傷の絶えないH。ドンガラガッシャン。「意外に痛くない」頭に鍋が当たったHの言葉に僕ら二人も後に続きます。頭に鍋が当たる事がまれで痛みより頭への直撃がうれしくて。最後には鍋に当たった人はわざとよろけてみせたり。まるでドリフのコントです。「うちの鍋、壊れちゃって」帰り際Hが森に落ちている鍋から一つ手に取ります。たぶんHの父親の仕業。父子家庭のHは父親に暴力を振るわれています。翌日、街中で出刃包丁を手に暴れるHの父親が逮捕され警察がHのアパートを調べます。部屋には乾煎りしたように、ぢんぢんに熱せられた様々な鍋が至るところに。Hは行方不明。Cの様子が変です。カッターで脅し問い詰めます。Hはいじめられっ子。人気のない見晴台で僕らはよくHをサンドバックにしてました。あの日は森で鍋が落ちてくる事に夢中で。でもHが鍋を持ち帰ると言うと僕が突然ブチ切れHを嬲り者にします。覚えてません。一際大きな金属音がし、そばに大鍋が。子供が一人入れる位の。僕は虫の息のHを鍋に押し込めその中に放尿しCと真冬の森を後にしたそうです。Cは異様な喉の渇きを訴え不登校になり揚句、近所で連続不審火を起こし保護観察処分に。時々、家の前にHのすすり泣く声がする蓋付きの鍋が。鬱陶しいので隣の家の玄関に置き去ります。後日の「真赤に点滅して浮かぶUFOの中から覗くケロイド状の何かから滴りが、滴りが」と半狂乱で全裸で外で暴れる隣の中学生の娘を隠し撮った動画は今でも僕のズリネタです。