田中せいや『ゲームセンターにて』

 ゲーセン武者修行に出て早七年。
 岩手県は遠野の、とある大型ゲームセンターにたどり着いた。
 おや、見慣れぬ機種がある。

 『ゆび相撲スーパーバトルマシーンK2』。

 名前は豪快だが、物はいたってシンプルだ。
 壁の、腰の高さあたりから、手が二本突き出ている。右手と左手。
 さっそく対戦。
 利き手の右で勝負だ。
 ひじを締め、ゆびを鉤の手状に曲げて相手とがっちり組む。
 おっと、強く握りかえしてきやがった。こいつ、やる気満々だな。それならこっちだって容赦しないぞ。
 レディー、ファイト!
 ゴングとともにやつの親指が目にもとまらぬ速さで動き出した。
 お、なかなか手ごわいぞ。負けるもんかあ。
 こいつめ、こうだ、えい、やあ、おう、それ……。
 ああっ、人差し指を使いやがった。ずるい。反則だぞ。
 頭にきて壁を叩くと、そいつは影絵でやるようなキツネのポーズをとり、ポン!と煙を吐いて消えたかと思うと、おれは田んぼの中にいた。