2010-07-25から1日間の記事一覧

『松川達磨』/湯菜岸 時也

木下老人は酒瓶を片手に、桜が満開に咲く石段を上っていった。この時期、わざと彼岸を避けて、人知れず仙台に行くのが習慣となっている。其処に心ならずも斬った男の墓があった。彼が藩士だった久保田藩は、戊辰戦争時に参戦し、発足したばかりの明治政府に…

『おやしらず』/湯菜岸 時也

私の仕事は化粧品の訪問販売、これは岩手方面の得意先を回っている時の話です。顧客に新商品のスキンクリームを勧めていると、急に親知らずが痛み出した。生憎、山奥の農村なので、歯科医院は近辺にない。この様子に見かねた得意先の奥さんが、助け舟を出し…