『カーテンの向こう側』/いわん

父の仕事の都合で引っ越すことになった。
仙台市七北田。東北は初めてだったが、もともとごみごみとした地元の環境があまり好きではなかったので、気兼ねなく引っ越した。
友人には、「へぇ仙台ねぇ。みちのくって、道あるの?」とからかわれた。
引っ越し後、言葉が違ったり、風習が違ったりで戸惑う事もあったが(エスカレータの立ち位置が逆なのには、慣れるのにしばらくかかった)、だんだんと慣れていった。
そう思っていた矢先の出来事だった。

「お姉ちゃん」4つ年下の妹が部屋に来た。
怖いから一緒に寝ていいか、と言う。
もうすぐ中学生だというのに、今日に限ってどうしたのだろう、と思った。
「誰かが覗いてるの」と泣きながら言った。どれ、と、妹の部屋に行く。妹は、一人でいるのも怖い、と私の後ろに引っ付いてきた。
妹の部屋を開ける。少し乱雑だが、特に変わったところはない。
「外から見ているの」妹の声は震えていた。
私は近づいてカーテンを開けた。
ただただ、夜の暗闇があるだけだった。
何もいないじゃない、と私はその時言った。
妹もおそるおそる暗がりを見つめていた。
でも、怖いなら、今日は一緒に寝てあげる。そう言った。その日以来、しばらく、妹は私の部屋で寝るようになった。

あの夜、私には一瞬だけ見えたのだ。
首のない身体が立っているのを。
そして、恨みがましい顔をした首が浮かんでこちらを見ているのを。

2年後、また父の都合で引っ越した。
私は以前住んでいた地元の大学に進学した。
あの場所の近くに昔、仙台藩の刑場があったことを知ったのは、それからずいぶんと経ってからである。