『八甲田山の怪』/バカボン

私の先輩の川村氏は東京出身で、車中泊しながら、車で全国の遺跡巡りをするのが好きな人だった。4月下旬の休日に青森県青森市三内丸山遺跡に行くこと思い付き、十和田湖から八甲田山を抜け最短距離で青森市に抜けることにした。が、峠を越えようとしたあたりで夕方近くになり霧が出始め、天気もみぞれ混じりになり、道路も凍結し始めた。車が滑ることから、山を下るのをあきらめ、山中の駐車場で一夜を過ごすことに決めた。
夜になり駐車場のはずれのトイレ近くに車を泊めしばらく休んでいたところ、奥の林が揺れ、ザワザワと音を立て始めた。「動物?カモシカもしくは熊かな」と思い、車を駐車場内の別の場所に移動した。少し気味が悪かったので、室内ライトを点けた途端に突然、「ボン!」とライトが破裂し、その途端、ザッ、ザッと大きな足音らしき音がしたと思ったら、車の後部が激しく縦に揺れ始めた。あまりの恐怖に車のエンジンをあわててかけ、滑りながらも懸命に峠を下っていった。峠を下ったところに一軒お土産屋があったので、夜半すぎではあったが、戸を叩いて泊めて下さいと叫んだ。中からお土産屋のご主人が戸を開け、「またかい。いいよ。泊まっていきなさい」と言い、快く一晩泊めてくれたそうである。
後日、川村さんが考古学の研究会で私にこの話をしてくれた。「もう、それ以降、車で泊まるのをやめたよ」と川村さん。私「その山の駐車場て、どこだったんですか?」。「そういえば、駐車場の奥の階段を登りきった所に何か銃を持って立っていた銅像があったよ。もう、夕方近くだったので遠目でよくわからなかったけど」。私にはもうその怪奇現象の意味が即座にわかったが、川村さんは「やっぱり動物のいたずらかな?田舎の山中て怖いね」と笑いながら話してくれた。