『ついてくる』/地獄熊ベルモンド

 この辺りは昔と変わっていないなあ。中学からはずっと東京にいたけど、就職してまたこっちで暮らすようになったことには運命めいたものを感じるよ。もちろん幼なじみの君と再会したことにもね。だけどこの土地からは離れたほうがいいんじゃないか、そんな気がしてならないんだ。
 小学六年の夏休みのことだっただろうか。山の中で友達と夢中で遊んでいるうちに僕は迷子になってしまった。一人でとぼとぼ山の中を歩いていくと立派な屋敷に行き当たった。恐る恐る門をくぐると人の姿はなかったけれど、庭には鶏が遊んでいたし、裏の馬小屋には何頭も馬がつながれていた。屋敷の中にも人はいなかったけれど、家具はどれも上等なものでお金持ちの家なんだろうな、って思ったよ。居間らしき部屋のちゃぶ台の上には何故か大量の食器がずらりと並べてあった。あちこち探検しているうちに僕は不意に怖くなってきた。この家は一体なんなんだろうってぞっとして、屋敷から逃げ出した。
 けれど本当に怖かったのはそれからなんだ。あの家にあったモノは僕の後を付け回してきた。鶏が僕の部屋に入り込んでいたり、川から食器が流れてきたりした。そんなことがずっと続いたけど、モノを拾ったらあの家に捕まりそうな気がしたから無視し続けた。親父の転勤で東京に移ってからはさすがにそんなこともなくなって、あの屋敷のことも忘れてしまったけれど、こっちに来て、またあの屋敷のモノが僕の周囲に現れるようになったんだ。このお椀、川を流れていたのをつい拾っちゃったんだけど、たぶんあの屋敷のモノだと思う。僕はあの家に捕まってしまうのだろうか。


 僕の話を聞き終えると何故か彼女は笑い転げた。憮然としていると彼女は「たぶんあなたはこの土地で暮らすことを運命づけられているのよ」と微笑み、僕の手をとった。