『息子さんからの絵葉書』/高柴三聞

私の勤めている老人ホームに東北出身の入居者さんがいました。もう亡くなってから数年経つ。無口で色白のかわいらしいおばあさんでした。うちのホームでは大体家族が頻繁に来られる方は少なく、亡くなるまで家族が全く顔を出さないということもざらにあった。

このお婆さんの息子さん夫婦から月に一度絵葉書が来ていました。私はいつの間にか、おばあさんに葉書を読む係りになっていました。

ある日、ミーティングのときにお婆さんの絵葉書のことを私が相談員の人に話すと怪訝な顔をされました。おばあさんの息子さんはもう何年も前に亡くなられたとはずだと言うのです。私が、お婆さんの絵葉書を見せると相談員の人はきょとんとしていました。

それから、半年後たまたまおばあさんの出身地の県で介護の研修会があり、空いた時間で絵葉書の住所を尋ねてみたんです。

ところが、そこはお寺さんでした。お寺の中にはムサガリ絵馬と言って(お寺の人に後で教えてもらいました)結婚しないで亡くなった方の結婚した姿を想像して書いた絵馬が両方の壁にびっしりとかけられている場所でした。無数の絵馬がぼんやりとぼやけて見えました。色とりどりの婚礼の姿が描かれている絵馬が、綺麗であればあるほど哀しさで胸が締め付けられる思いでした。

ホームに戻ってからおばあさんに息子さん会ってきたよというと、おばあさんは口元を少し綻ばせて、ぽつりと言いました。

「あれは、死んでからも手がかかってねえ。」

結局あの絵葉書の送り主は、おばあさんが亡くなってからも分からずじまいでした。ただ今でも時々、おばあさんはあの世で息子さん「夫婦」達と楽しく暮らしているんだろうなと、思ったりします。