『菩提寺』/分家柳雲堂

 中学生のころ、友人たちと百物語をした。言いだしたのは桜田と遠藤。場所も二人が決めた。三好の家がお寺だったので、嫌がる本人を無理に説き伏せたのだ。庫裏の奥の広間がそれで、夜、七時にはみんな集まった。しんとした中、各々、怖い話をはじめる。あっという間に九時を過ぎた。怖い話は、まだ四十ちょっと。そのときだった。
 外でガサガサ、物音がした。石を踏むような足音も聞こえる。ぼくらは全員びくりとしたが、桜田と遠藤は平静を装って言った。
「ビビってんのかよ。じゃあ、おれたちが外へ行って、正体たしかめてきてやるよ」
「だめだよ、行ったらだめだ」
 切羽詰まった声を上げたのは三好だった。
「出るんだよ、首なしの幽霊が。見つかったら、首を取られるって」
 聞いてみんな顔色を変えたが、二人はかえってムキになる。
「ばーか。幽霊なんて、いるわけねえだろ」
 そう言って、勢い込んで外へ出た。
 あとから聞いた話だが、この寺は、非業の死を遂げた仙台藩士の菩提寺だそうだ。幕末の時代、仙台藩は官軍と戦って敗北した。藩は新政府に処分され、藩主は隠居、家老二人が斬首され、所領も大きく削られる。
 しかし、この処分に不満な者もいた。戦後、藩政を握った攘夷派藩士たちだ。処分すべき者は他にもいる。そう思っていたらしい。だからだろう。半年後、藩兵の脱走事件が起こると、彼らは直ちに、かつての藩重臣たちを首謀者として捕縛する。そして新政府の裁きを待たず、全員を切腹させ、首を切った。
 この寺に葬られた藩士も、刑を受けた一人だった。最後まで無実を訴えていたという。
 二人が外へ出たあと、みんな声も出せずに広間で待った。直後、外から悲鳴がして、遠藤一人が戻ってくる。真っ蒼な顔だった。
桜田が、桜田が…」
 桜田は、その夜以来、見つかっていない。