『大叔父のはなし。』/マツフミ オウカン

我が大叔父によると,おばけを見るのはそれほどたいしたことではないらしい。
むしろ「見でもしゃねっぷりするほうがおどけでない」(見ても知らないふりをする方が大変だ)のだそうだ。はなしを聞くと,どうやら大叔父は,子供の頃に見た座敷童子から現在に至るまで,様々な怪異に遭遇する機会に恵まれて(?)きたらしい。

ちなみに,ある子供を座敷童子と判定した根拠は,祭やら何やらで子供たちに菓子が振舞われる際に,その子だけいつも,まるで見えていないかのように順番を飛ばされていたからなのだとか。
……かように大叔父のはなしはどれもこれも今ひとつ根拠に乏しく,突っ込みどころ満載である。このときも,それってなにかの理由でいないことにされていた子だったんじゃないの?
と言ったところ,大叔父は黒々とした目を剥いて「そいなごどはね!」と叫び,自説を懸命に固持し続けた。
あまりにも頑張るので面白くなり,わざと,そうかなぁ?おおおんちゃんの勘違いでないの?だれ今時おばけなんてさ,と調子に乗って続けたら,それこそ目を三角にして怒りだし,あげく年長者の話を真面目に聞かない,と説教が始まってしまったのには参った。

今日も今日とて神社の石段のところで人魂を見た,などという話を始めるので,ま〜たまた,などと適当にあしらっていたら,いつものように怒るかわりに
「んでもおめぇは家うちで一番おれに似でっからなぁ」
とつぶやくので,珍しいことがあるものだ,と思い,
「いや,でもお陰様で,そっち方面でおっかない思いをしたことは一遍もないから」
と言うと,齢21歳にして南方で散華した大叔父は「んだか」とニッコリ笑った。