『中で潰れる感触』/クジラマク

短大のゼミ合宿の帰り、Kの車で合宿地に訪れていた私達五人は帰路の中、Fの提案で噂の廃墟に立ち寄ることになりました。目的地の山の中腹の空き地に車を止め、銘々分かれFのいう廃墟を探しますが、辺りは雑木林だけでそれらしきものは見つかりません。諦め車を停めた場所に戻ると先に戻っていた子達が、奇妙な毛皮を着た人物を囲み笑っていました。熊や鹿、狐など様々な獣の毛皮を継ぎ接ぎ一枚に纏めたもので全身を覆い、二人の人物が前屈みで二人羽織のように重なり奇態を演じています。特に前にいる人物がくぐもった声で、後ろの人物に羽交い絞めにされているような姿が滑稽です。何してんの、と聞くと先にいた子達が、あんたとTじゃなかったの、と驚きます。確かにここにいないのはあとはTだけ。毛皮を纏った後ろの人物がスクッと背を伸ばします。2メートルは超えています。それが前の人物を押します。中から咳き込み全裸のTが傷だらけで出てくると、毛皮のそれは獣じみた奇声を上げ雑木林の奥へ四つん這いで走り去ります。倒れたTのヒクヒクする股間に目が。少しくすんだあそこは針金で縫われ、閉じられた裂け目からタンポンにしては短い紐が覗いていました。Tは今も担ぎ込んだ病院の精神科で療養中です。事情を説明した警察は及び腰で犯人は捕まっていません。Tを頻繁にお見舞いに訪れていたKが失踪します。彼女の車は例の山の中腹の空き地で放置され、異様な布が車の排気管に詰められていました。それは、襲われたTの行方不明だった服と、失踪したKの服それぞれ下着を含めた一式を、一枚の布へ雑に継ぎ接いだものでした。「中で潰れる感触が堪らない」針金を取り除いたあそこから、視神経の残った、人間の潰れた眼球が摘出されていたTは、精神的にはだいぶ落ち着いたものの、中に色々入れる癖は酷くなる一方で、この前はどこから持ち込んだのか、丸々と太った金魚を押し込め、潰してしまったと聞きます。