『雀蜂』/藤代 京

実家は古い農家だった。
母屋の天井裏に羽音を立てるものたちがいた。
そやつらは富を運んでくるから、屋根裏の穴を塞いではならぬ、とは先祖からの言い伝えだった。
それを律儀に守っているお陰で、夏になると黄色と黒の、羽音たてるものが現れる。
ある日、屋根裏に蚊帳を取りにいかされた。
蜂はいないから、骨と皮だけの祖母に言いくるめられて。
俺に物を取りに行かせるというのに、祖母があとをついてくるのは不思議だった。
昼でも明かりが入らず、薄暗い屋根裏を手探りで進む。
屋根裏といえども中腰になれるぐらいの高さがあって、行李やガラクタが埃にまみれていた。
そう、そこの奥。
と祖母が言う。
壁に突き当たった時、祖母が後ろから突き当たってきた。
壁がどんでん返しに回って、その向こうに転がり出た。後ろでなにかを引きずる音がして、壁が動かなくなる。
無数の羽音で耳鳴りがした。
積み上げられた無数の骸骨と、頭蓋骨の中に層をなす蜂の巣があった。
出入り用の四角い穴から、鮮やかな光が入ってくる。
床には、母の着物をまとった骸骨が横たわっていた。
雀蜂は肉を喰う。腐れるに任せるより、骨になるのは早かっただろう。
着物の裾が動いた。下から雀蜂がもそりと、這い出てきた。
ああ、この家はこうして栄えてきたのか…