『ミッシングリンク』/村岡 好文

 東京に住む私の父はこの春定年退職した。いわゆる団塊の世代だ。これからは趣味に生きるのだと言って、退職金でキャンピングカーを買った。これに乗って夫婦で高速道路を全線走破するのだそうだ。高速道路には24時間営業のサービスエリアもあるから、キャンピングカーで気ままに旅するのには好都合らしい。そしてまず東北へ行くという。まったくいいご身分である。単身赴任の仙台であくせく働き、年金すらまともにもらえるのかもわからない私には、夢のような話だ。
 今、水戸の近くだ、とメールが入った。常磐道を北上しているようだ。いちいち息子に報告などしなくていい、と私は返信した。しかし父と母はその後も、時々メールを送ってよこした。
 「今、新地よ。」新地?新地ってどこだ。私は聞きなれない地名に首をひねったが、仕事にかまけてすぐに忘れてしまった。
 次のメールは石巻からだった。そして気仙沼、釜石と続き、これから遠野に行くと言ってきた。そのメールを見て、私は何かおかしいことにやっと気づいた。遠野には最近行ったが、あそこに高速道路はまだできていないはずだ。計画を変更して一般道を使ったのかと思った。しかし時間的にも一般道で行ったにしては行程が早すぎるし、メールに添付された写真はどう見ても高速道路を走りながら撮ったとしか思えない風景が写っていた。
 それから一ヶ月、両親の行方は依然としてつかめない。警察もさじを投げかけている。ただ、今も父と母からのメールは時々届くから、元気ではいるのだろう。メールに書かれた地名を見る限り、東北の高速道路は網の目のように張り巡らされているらしい。
 どこでどんな間違いがあったのか、私にはわからない。でも、いつの日か計画中の高速道路がすべて完成したら、父と母にも会えるのではないか、それが今の私の微かな希望である。