『あんじゅさん』/天羽孔明

 私の祖母は、福島県内の、とある山村の出身です。
 その山村では、明治の後年まで、双子は不吉だという因習が残っていたそうです。だからその村で双子が生まれると、どちらかを“あんじゅさん”に託すんだそうです。
 祖母の双子の姉は、生まれつき左目が不自由だったので、“あんじゅさん”に託されたんだそうです。
 晩年、祖母はよく「自分が幸せな生涯を送れているのは“あんじゅさん”と姉のおかげなので、次は姉に幸せになって欲しい。その為にも、今の内に“あんじゅさん”にお参りをしたい」と言ってました。しかし、その願いが叶えられることはなく、祖母は亡くなりました。
 祖母の死後、私と両親が祖母の生まれた村に行くと、村の入り口に小さな祠があり、その傍らに立てられた石碑には、“闇守地蔵”と彫られていました。
 私はずっと、祖母の言う“あんじゅさん”は、“安寿さん”と書くのだと思っていたので、闇守の文字が、とても不吉に思えたのです。

 それから数年後、私は結婚をし、子供を産んだのですが、生まれた双子の姉は生まれつき左目が不自由で、妹の方は、生後まもなく原因不明の高熱のあと、あっけなく亡くなってしまいました。
 その娘も数年前に結婚をし、先日双子の姉妹を生んだのですが、長女は生まれつき左目が不自由なのです。