『上有住の河童の話』/田辺青蛙

上有住にある、蔵王洞窟遺跡から車で5分ほど進んだ場所に地元の人たちからめがね橋と呼ばれる橋が掛かった川がある。
そこに銀色の腹をした河童が住んでいるという。
何でも、そこの河童の皮膚は青く銀色の斑が腹にあって、大きさは子供の腕程しかなく、フナに似た姿をしていて、大層深い所に普段は潜んでいるそうだ。
川の水温はかなり低く、流れも急なのだが、その川で身投げをして死んだ者はおらず、地元の人たちは河童がそっと岸に戻してくれるからだという。
天気のいい日に、橋から川底を覗き込むと、底の方でキラキラと河童の腹が光るのが見えることもあるそうだ。

「辛いことがあった時にね、あの川の側に行くとぷくぷくっと水面に泡が浮いて、不思議な歌が聞こえて来たことがあったの。
恥ずかしがり屋の河童が、何とかして励ましてくれようとしてるのかって、勇気が沸いて来たよ。
他にも、あそこに行って川に向かって悩み事を打ち明けてみた後にね、歌を聞いた人がいるの。
モンゴルのホーミーに似てたって人もいたわねえ」

そう語ってくれた上有住出身のFさんは、河童からかつて聞いたという歌を真似て披露してくれた。
それは、遠いどこかの国の民謡のような、とてもゆったりしていて何時までも聞いていたくなるような、心地のよい歌声だった。