『百足』/豆傘馬

宮城県石巻市から船で一時間程の場所にある田代島。
今から40年前にその島に住んでいた友人から聞いた話です。

友人が幼い頃、近所のおじいさんの家に行った時の事。


「百足にはよ。その名の通り百本脚があんのか気になってな。ワシは数えたよ。頭を細長い釘で打ち付けて、一本一本脚を抜いていぐんだ。76本だったな。全部で。」


友人が「その脚をもがれた百足はどうなったの?」
と、聞くと

「死んじまったよ。黒い血が体から溢れて痙攣してじきに動かなくなっちまった。それがいけなかったんだな」

伏し目がちになり、両の手で全身をさするおじい。


「百足に祟られたんだ。毎晩夢に百足が出てきてワシを追い掛けるんじゃ。体をグニュグニュうねらせながら。そして、その後すぐだ。村にでっかい百足が出たのは。ヘビよりもでかかったな。男衆総出でなんとか捕まえて棒で叩き潰してよ。そしたら、こりゃあ山の神さんだって誰かが言ってや、みんで祠建てて祀ったんだ。だけどな、ダメだったんた」


一匹の小さな百足がおじいの膝元を通り過ぎた。
おじいは素早くそれを掴むと、右手で握り潰した。

そして、右の手のひらをゆっくり開けそこをジッと見つめる。


「ざまあみろ。」