『青根のホテル』/豆傘馬

これは大学の友人Sから聞いた話です。

Sはテニスサークルに所属していました。毎年夏休みになると合宿に行のが恒例で、今年もサークルの仲間十数人で宮城と山形の県境にある青根という場所へ行き、そこのとあるホテルを宿をとったそうです。

4泊5日の日程で、昼間はテニス。夜は部屋で飲み会。最高のロケーションにみんな浮かれていました。

そんな初日の飲み会の最中。仲間の女の子数人がトイレから帰って来るなり
「ちょっとヤバイんだけど」
明らかにその顔は焦っていました。
話を聞くと、トイレで話をしていたら他に誰もいないはずなのに女の声が聞こえてきたと言いました。
「まさかそんな事あるわけない」と、みんな相手にせず、その場はお開きとなりました。

翌日、Sが朝食会場でバイキングを食べていると、一人の後輩が青白い顔をしていた。
Sは不思議に思い事情を聞いてみると、真夜中に部屋の窓を開けてタバコを吸っていたら、男が上から落ちていったという。
後輩の部屋は6階。飛び降りだと思い、慌てて下を見るも地面に男の姿はない。1階まで降りてみたがやはり姿はなく、痕跡すらもなかったという。
しかし、後輩は間違いなく絶対に見たんだと言い張り、スーツ姿の浅黒い顔でスポーツ刈りだったと、特徴まで言い出した。
その後も、サークル仲間の間で怪現象は続き、4泊5日の予定だった合宿は結局2泊に切り上げられ皆逃げるように帰ったそうです。
ちなみにSの方は何も見なかったし、何も起こらなかったとあっけらかんとした表情で言っていました。

しかし、その合宿から数ヶ月後、テニスサークルはある事件を起こし、廃部となりました。Sはそれから大学に姿を見せなくなり、連絡も取れなくなりました。あの、夏合宿が原因であるとは正直、考えたくはありません。