『早池峰神社』/ハルカ

 もう20年近く前になる。
 人気のない、民家もまばらな淋しい山道を、だいぶ走ってやっとたどり着いた早池峰神社。 
 長い石の階段が記憶の中にある。肝心の神殿が何処にどういうふうに建っていたのかは思い出すことができない。とにかく、石段を登り切ると平坦な広い土地があり、平屋が建っていて、掃き出しのガラス戸が開け放してあった。続きの広間で数人のお年寄りが、茶を飲みながら、がやがやと話をしているのが見えた。
 ふと、私の側に小さな女の子が立っているのに気づいた。おかっぱで、赤いセーターとズボン。5歳くらいだろうか。
 なんだか妙な感じがした。
 どこから来たのだろう。この辺りには、ほかにも子供はいるのだろうか。いるとしたらどんな生活をしているのだろう。親だってまだ若いだろうに。幼稚園や学校は近くにあるのだろうか。どうやって遊ぶのだろう。そんなことが次々と浮かんだ。
 その子と少し言葉をかわした。話の内容は覚えていないが、帰り際に「また会えるよね。」というようなことを言われたことが記憶に残っている。
私が石段を下り始め、中程でふと振り返ると、その子が一番上に立ってこっちを見ていた。これも旅の記念と思い、その子にカメラを向けた。
 それだけのことなのだか、「早池峰」と聞くと、その子のことを思い出す。深い緑の中の、赤いセーターが鮮やかによみがえる。
  
 私は古いアルバムを開いた。
 写真の中に、石段の上で静かに笑っている女の子がいる。
 
 後ろから「会えてよかった。」という声がした。
 私の5歳になる娘が、赤いセーターを着て立っていた。