『籠の中』/こまつまつこ

 子供の頃、よく友達のS君と、林で木の実を拾って遊んだ。いつだったか、赤黒くて珍しい形の木の実を見つけたことがあった。それはぽつぽつと林の奥に続いて落ちていた。あんまり珍しいので、S君に自慢しようと思って、落ちている木の実を拾い集めた。

 木の実を拾って歩いていると、だんだん肌寒くなってきた。林の中はまだ十月なのに、地面に薄っすらと雪が積もっていた。そろそろ帰ろうと思ったが、帰り道がわからないことに気が付いた。それほど大きい林でもないのに、いつまでたっても抜け出せない。心細くなってS君の名を呼んだ。そう遠くにはいないはずだが、返事は帰ってこなかった。

 寒さは増すばかりで、積もっている雪も進む度にだんだんと増えているみたいだった。途中、白く染まった道に茶色い毛むくじゃらが落ちていた。近付いて見てみると、兎の形の腐った屍骸だった。それから少し進むと、狐のような屍骸が横たわっていた。狸、鹿、猪。歩くほど動物の屍骸は増えていった。

 寒さも限界で、歯がガチガチ鳴るほど凍えていた。吐く息も白かった。お腹はすいていたけれど、拾った赤黒い木の実は気持ちが悪くて、食べる気にはなれなかった。

 更に行くと、一層雪が深くなって辺り一面が真っ白な場所に出た。いくら何でもこの季節にこんなに雪が積もるわけが無い。おかしいと思って雪をすくい上げると、それは手の平の中でぞわぞわぞわ、と身を捩った。ギョッとして手の中を見た。雪だと思っていたのは、沢山の雪虫だった。慌てて手を振り回し、虫を払ってその場から逃げ出した。拾った木の実もその時に全て落としてしまった。

 いつの間にか林を抜けていた。泣きながら家に帰ると、「三日も今まで何処にいた」と父に酷く叱られた。父が「S君は一緒じゃないのか」と聞いてきた。わからないと首を振った。あの日一緒に木の実を拾って遊んでいたS君は、ずっと行方不明なのだそうだ。