『骨石』/小島モハ

 尺骨のかたちをした石をここで見つけてもう十年になります。化石ではありません。もちろん骨ではない。骨のかたちをした、自然の石なのです。
 それからこのかた、時間をみつけてはここに通い、ひたすら石を拾いました。幾本もの肋骨、ころころした指骨の諸々、寛骨……。骨盤を組み立てた翌日、頭骨の石の一片を発見したときには、躍り上がったものです。そうして十年たったいま、ようやくほぼ全身の骨格が――ヒトのかたちがあらわになったのです。
 ちかごろ、菅江真澄の本を読んで知ったのですが、ここは昔、骨石というものが堀りだされた場所なのだとか――これは余談。
 さて、あなたにだけは言っておきます。告白します。この石の骨は姉のものなのです。十七の誕生日の日に行方不明になって以来戻らない姉の。どうしてわかるかって? 復顔なんかしなくたってわかるんです。石を撫でていればわかる。きっと、どこか寂しい場所をさまよっていた姉の思念が凝固して、こうして骨のかたちになったのです。
 ですから、わたしも姉の気持ちに応えるために、姿を隠したときに着ていたセーラー服と同じものを購いました。姉の骨の石に着せてやりました。かつらも、あのころのように、可憐なおさげにしてあげて……。お帰りなさいって、思わず口走ってしまいました。
 でも、左足の、大腿骨から下の石だけは、いくら血まなこになって探しても見つからない。いくら土を掘っても出てこない。
 諦めたわけじゃない。でも、どうやらこのごろは、絶対に見つかりっこない、あるわけがない、そんな気がするんです。その理由を、どうやら自分は知っている、そんなふうに思えてしかたないんです。