『光環神社』/日野光里

とてもよく願いを叶えてくれる神社があるというので、私はひとり旅立った。
着いた神社の境内は、とても陰鬱で、人の陰が見えない。
そう言えば、ここを教えてくれた人は、お願いごとをする姿を人に見られたくないことが多いと言っていた。
なぜなら、真っ当なお願いごとばかりではないからだそう。
私はさっさと現場を離れようと、とにかく絵馬にお願いごとを書いて、吊るしに行った。
ふと、ほかの人が書いている願いごとに目をやる。
「目玉がほしい」
「右足がほしい」
いくつ見ても、そこにかかってあるのは、身体の部分をねだる言葉。
願いというよりは呪詛に見えた。
そう言えばと、この神社を教えてくれた知人が、長年、視力が落ち続けていることに思い至る。
まさかと笑いかけたが、がしっと両肩をつかまれた。
「あんた、その願い、早くかけなよ」
左肩をつかんだ男が言う。耳がやけどやなにかで、紙クズのようになっている。
「良縁なんか、いくらでもくれてやるから」
右肩をつかんでいた女が言う。左の頬から顎にかけてが、みにくく崩れ落ちていた。
「私は顔がほしい」
女に言われて、私はその場で卒倒した。
気づいた時には、すっかり夕暮れだった。
慌てて、自分の絵馬を探すが、釘でメチャメチャに打ちつけられていて、はずせそうにない。
それに、たくさんの指紋もついていて、とても触ろうは思えなかった。
自分の相手が腎臓くらいならいいと願わずにはいられない。