『カミサマ』/内村夏海

 僕とカミサマの初めての出会いは、僕が歩き始めた頃のようだ。おばあちゃんいわく、いつの間にか外に出た僕が転んで庭石に頭をぶつけそうになった時、たまたま休憩していたカミサマにぶつかって事なきを得たそうだ。この団子をカミサマの前に持ってってお礼を言うんだよ。そうおばあちゃんが言って団子を渡すのが、僕が覚えている最初の記憶だ。太い眉にギョロっとした目、カッと開いた真っ赤な口が怖くて、落とすように団子を置いてもどってきたら、おばあちゃんに酷く叱られたよ。それから毎年、カミサマに団子を備える役目は僕になったわけだ。
 毎年、カミサマを間近で見るとさ、顔が微妙に違うんだよね。毎年新しくなっているから、当たり前なんだけど。それでなんか好きだなっていう顔の時もあれば、嫌いだなって思う顔の時もある。カミサマの顔に何かしら感じる年は、僕にとって大ケガしたり妹ができたりと印象深い一年になる。そういうこともわかるようになったよ。
 でも、一番鮮やかに覚えているのはやっぱり大学受験の時のことかな。プレッシャーに耐えかねて家出しようと、村を出ようとしたんだ。バス停からはカミサマが見えるんだけど、頭や腕に雪の積もったカミサマを見ていたら、目が合った気がした。そしたら頭がスッと落ち着いて、馬鹿馬鹿しくなって家に帰った。
 あの姿、あの目を思い出すと今でも冷静になる。だから、お前が、カミサマがぴょんっと跳ねて鳥を追い払ったのを見たって言っても驚かないよ、僕は。

大きな藁人形が飛び跳ねたのを見て動揺する私を前に、落ち着いた口調で友人はそんなことを言い、茶を飲んだ。