猫吉『ソフビ奇談』

 私と大村は、オモチャ関係のブローカーをしている。骨董屋でいえばハタ師、古本屋ならセドリ屋といったところで、二人で各地を旅行しては掘り出し物を探している。
 その大村が最近姿を見せない。共同で借りている事務所兼倉庫から彼の荷物が消え、あわてて旅に出たような気配がある。携帯もつながらない。
 見慣れない旅行雑誌が資料の中に突っ込んであるのを見つけた。頁をめくると一カ所、コピーでも取ったように開きぐせが付いている。内容は東北の記事だった。座敷童の出る旅館が紹介されている。
 座敷童がいるという部屋の写真が掲載されていて、その部屋はおびただしいオモチャに埋め尽くされていた。記事によると、会えたお礼に客がオモチャを届けてくれるのだという。
 写真を見ているうちに、ある事に気がついた。大村がいなくなった――その理由がわかったのだ。超レアなソフビ人形が、大量のオモチャの中に埋もれていたのである。
 何日か経って、大村が満面に笑みを浮かべて事務所に入ってきた。私に東北みやげを渡すと「どうよ、景気は?」と訊ねてきた。
 私が一言文句を付けようとしたとき、彼の携帯電話が鳴った。
「……そんなバカな。あれはたしかにオリジナル一期のガラモン。しっぽが可動したのはあんたも昨日確認しただろ? なに、足裏の刻印が違う、オレが復刻版と取り替えただと。おまえこそ、金が惜しくなって、すり替えたんだろ。一期なら安くたって四百万、それが復刻版だったら二束三文、そんなことはあんたも良く知っているはずだ」
 携帯電話を怒りで握りつぶしそうな大村の隣に、いつのまにか、古めかしい服をきた大きな頭の少女が立っている。彼女は耳たぶに手をやると、私に皮肉な笑いを投げかけて、すぐに姿を消した。