2011-09-23から1日間の記事一覧

GIMA『僧侶が置いていった物のはなし』

かの悲劇から一月ほど過ぎた頃、奇妙な出来事が報告された。以下は石巻市のSさん夫妻の体験談。 Sさん夫妻は地震後の津波によって、一人娘の美華さん(24)を亡くしている。 美華さんの遺体は発見されず、大量の瓦礫とともに沖へ流されたと判断された。 …

猫吉『ソフビ奇談』

私と大村は、オモチャ関係のブローカーをしている。骨董屋でいえばハタ師、古本屋ならセドリ屋といったところで、二人で各地を旅行しては掘り出し物を探している。 その大村が最近姿を見せない。共同で借りている事務所兼倉庫から彼の荷物が消え、あわてて旅…

猫吉『座敷婆子』

俺が三十代の頃、会社の休暇を利用して、岩手県まで渓流釣りに出かけた。 最初は野宿をしていたが、何日かすると人恋しくなった。山を下り、車を走らせていると、旅館を見つけたので、そこで一泊することにした。 安いだけが取り柄の古びた旅館で、それでも…

神沼三平太『腕』

東北出身の友人である工藤さんの話。 「うちの家って、変な話が山ほどあるんだけど、最近ちょっと気になることがあるの」 語り始めたのは、彼女の先祖の話だった。 先祖といっても、そんな昔の話ではない。昭和の初期のことだ。 工藤さんの曾祖父は釣りが趣…

かもめ『ウミネコ』

午前十時から秋刀魚祭りが催されることになっていた。腕時計を見る。午前九時。ぼちぼち人々が姿をみせていた。煙草を咥えた。ほぼ、準備は出来ていた。会場は海から五メートル。そう。五メートル道路が海と会場を隔てているだけだった。 (ウミネコの数が多…

不狼児『今日の出来事、及び続編。ニュースより』

大洪水の後。河童の溺死体が山のてっぺんで干からびている。 ナメクジ医者「塩分は控えめにね。塩分は体に毒です。ならば摂らない方がいい(おまえを食って溶けたくねえ)」 永遠の夏が棲むプール。水は濃い緑色に濁っている。空を映す水面はいつも平らで、…

鬼井春明『マクラカヘシ』

ごうと鳴り、目を覚ます。靜かに冷えた深更。窓向こうに闇蟠を見て、ああ何処かの屋根から雪塊が落ちたと思う。 ひとつ寝て、またひとつ、ごうと鳴る。 息苦しさで何かを払い除けた夢を見て、目を覚ます。枕が頭の下に無く、代わりに首元にちりちりと蠢く違…