鬼頭ちる『えらいひとだあれ』

『えらいひとだあれ。えらいひとだあれ。家計を支えるお父さん、家庭を切り盛りお母さん、やっと生まれた跡取り坊や、べっぴんさんのお姉ちゃん、怒鳴って威張るはお爺さま、黙って捨てられお婆さま、えらいひとだあれ、えらいひとだあれ。この世に生まれたすべてのひと、この世で死んだすべてのひと、この世に生まれず死んだ種、山から落ちて死んだひと、海で溺れて死んだひと、暑さに耐えかね死んだひと、寒さに凍えて死んだひと、我が子を殺した親御さま、親を殺した宝の子、自分で自分を殺ったひと、えらいひとだあれ、えらいひとだあれ。女に生まれた男びと、男に生まれた女びと、五体満足生まれた子、五体揃わず生まれた子、魂もたずに育った子、魂すてて育った子、親にほされた子供たち、親を見捨てた子供たち、えらいひとだあれ、えらいひとだあれ。勉強一番できる人、心の痛みがわかるひと、お金をたくさん稼ぐひと、お金をいっぱいあげたひと、大きな家を建てたひと、自分の家をもたぬひと、女を騙して暮らすひと、男を喰って暮らすひと、えらいひとだあれ、えらいひとだあれ。誰かを愛して生きたひと、誰も愛せず生きたひと、愛しすぎて殺ったひと、愛せなくて殺ったひと、自然を壊して誇るひと、自然を戻して笑うひと、えらいひとだあれ、えらいひとだあれ。この世で一番えらいひと、この歌ぜえんぶいえるひと、ひとつも違わずいえるひと、だれができる、だれができるか、できなきゃこまる、できなきゃこまるよ、できなきゃここではくらせない、できなきゃここで野垂れ死に、えらいひとだあれ、えらいひとだあれ。えらいひとわたし、えらいひとわたしだ、ぜえんぶ歌えるえらいひとわたし』
 これは今から百年前、ここ、東北地方で生まれ大流行したわらべ歌です。私は祖母から教わりましたが、うっかり忘れた母はあっけなく亡くなりました。私は月へとお嫁に参りますが、覚えているから平気です