2011-11-18から1日間の記事一覧

アップロード遅延のお詫び

たいへん申し訳ありません。当方のメールフィルタリング設定の不具合により、作品のご応募をいただいたメールがいくつか迷惑メールフォルダに振り分けられてしまい、アップロードが遅くなってしまいました。ご心配とご迷惑をおかけした方々に、深くお詫び申…

時貞八雲『死美人』

義明はリビングでテレビをぼんやり眺めながら、半年前に行方不明になった恋人の明子の事を考えていた。 明子は同じ高校に通う同級生で、その日は彼女が義明の家に十二時に来る事になっていた。だが、彼女はいつまでたっても来なかった。 来たのは堅物のよう…

松 音戸子『火振りかまくら』

二月、じいちゃんと角館の火振りかまくらを見にいった。縄を結び付けた稲わらの固まりに火をつけて、ハンマー投げみたいにぐるぐる回す、厄を払うためのお祭り。 夜、火の粉を散らしながら回る様子は危なっかしいけれど、炎のドーナッツみたいな円は雪に映え…

高田公太『あっこさ見えるあの山で』

むがしむがし、あっこさ見えるあの山で、おなご一人が迷子さなったんだど。 したっきゃ、真っ暗な山ん中で、おなご、おっかねして泣いてまったんだど。 あんま泣ぐもんだはんで、キツネっこ寝られねして、困ってまった。 ーーなんぼ、さしねぇおなごだしての…

高田公太『雪女』

「なんぼ吹雪いじゃあばして」 窓の外へ目を向けて、父がそう言った。「今日だば、母っちゃ帰ってこねべが」私は父に問いかけた。「こう雪深ぇば、帰ってくるがさもな」 父が言うに、母は強い吹雪の日になると庭に立つのだそうだ。 家には、一枚も母が写った…

丸山政也『巻貝とおんな』

阿弥陀に被った角帽を掌で押さえ付けて、私は女の後を追っている。女は色艶やかな友禅に外八文字で歩いているというのに、どれだけ急ぎ足で追っても、二人の距離は一向に縮まらない。女は低い嗤い声だけを私の耳朶に残しながら、複雑な隘路をすり抜け、路を…

宮本あおば『帰郷』

駅前通りでは、外に設置された古いスピーカーから、いつもの曲が流れている。音が悪いのは装置のせいなのに、暑さのあまり歪んで聴こえるのではないかと感じる。 夏祭りだ。 初日の踊り流しを見に来た私は、高校時代の同級生と、コーヒーショップに座ってい…

坂巻京悟『即身木』

山形県の出羽山麓で育ったというTさんの話。 当時、未就学児童だったTさんは、よく近所の公園で遊んでいた。そこは樹木が数多く生えていて、ブランコなどの遊具も置いてあり、子供が友達と過ごすには申し分のない場所だった。 その日、Tさんは友達とのタ…

百句鳥『挨拶の音色』

東北地方のさる小さな町で、病により床に伏せていた夫が息を引き取った。九十を超える老体に厳しい冬の寒さが応えたのか。しかしながら生きるだけ生きた彼の死は、関わりのある人々に後悔の念を抱かせなかった。葬式後に始まった談笑がそれを物語っていた。…

鬼井春明『章仁と尚絵』

よく知る章仁は変わり果てていた。 あの日から半年を過ぎようとしていた夜、わたしは章仁と相見える機会を設けた。想いを受け止める器量なぞ自分にあるはずもないのに、それでも章仁に会っておきたかった。 ―あいつの会社がさ、あの東部道路の向こう側にあっ…

宮ノ川 顕『鬼の手形』

幼馴染のFとこの神社に来たのは、去年の夏のことである。彼の奥さんのU子が溺死して一年目の命日だった。子供の頃、ぼく達三人はよくここで遊んでいた。それでFはぼくを誘ったのだろう。 「あいつ、ひとりで海に行ったんだよ。俺が仕事ばかりしていたから…

坂巻京悟『猪鷹』

岩手の西部に城の形をした成層火山がある。 その麓では〈猪鷹〉と呼ばれる風神が崇拝されている。読み方は《イタカ》だが、《イダグァ》と濁って発音する年配者も少なくない。一説に拠ると、この表記は明治以降に発生した宛字であり、岩手出身の文学者が使い…

鬼頭ちる『えらいひとだあれ』

『えらいひとだあれ。えらいひとだあれ。家計を支えるお父さん、家庭を切り盛りお母さん、やっと生まれた跡取り坊や、べっぴんさんのお姉ちゃん、怒鳴って威張るはお爺さま、黙って捨てられお婆さま、えらいひとだあれ、えらいひとだあれ。この世に生まれた…