時貞八雲『死美人』

 義明はリビングでテレビをぼんやり眺めながら、半年前に行方不明になった恋人の明子の事を考えていた。
 明子は同じ高校に通う同級生で、その日は彼女が義明の家に十二時に来る事になっていた。だが、彼女はいつまでたっても来なかった。
 来たのは堅物のような顔をした刑事だけだった。
 刑事の話によると、昼頃に家を出た明子は自宅近くのコンビニに立ち寄った後、恋人である義明の家に行くために駅を通り抜けようとしている姿を駅員に目撃されたのを最後に、ぱたりと消息を絶ったのだそうだ。僅かな血痕だけを残して、まるで神隠しにでもあったかのように消えてしまったのだ。
 もはや生存は絶望的だった。それでも義明はもしかしたらある日突然家に訪ねてくるかもしれない。そんな期待を持っていたが、彼女が義明の家を訪れる事はなかった。
 ふと母親の義明を呼ぶ声がしたので、庭に目をやると東北の厳しい寒さが足音を鳴らす中、母親がなにやらスコップ片手に穴を掘っていた。
 義明は窓際に移動した。
「ねえ、スコップの先に固いものが当たって掘れないのよ。あんた暇なら手伝ってよ」母親が言った。
 ふうとため息を吐きながら、義明は頭を掻いた。どうやら、母親は家庭菜園でも始めるらしい。内心面倒だと思いながらも窓を開けると、母親の悲鳴のような声が聞こえた。
 義明は慌てて庭に飛び出した。穴のそばで地面に座り込む母親に歩み寄ると、母親が「そこ! そこ!」と言いながら穴の中を指差した。
 義明は穴の中を恐る恐る覗き込んだ。
 するとそこには、到底半年前に行方不明になったとは思えない程、それはそれは綺麗な明子の遺体が顔を覗かせていたのだ。一切の腐食がなく、鮮やかな紅色の口紅や、艶めかしい彼女の目など、すべてが半年前のままだった。
 義明が明子の頬にふれると、彼女は自分が土に埋まっている事を恥らったのか、頬を桜色に染めながら視線を下に落した。
 それは風花がちらつく寒い冬の日の出来事であった。