根多加艮『シコフミ』

 震災時に失職した私は一ヶ月後、なんとか仕事を見つけた。 初心者歓迎、河童とシコを踏む仕事だという。集合場所に行くと親方と名乗る男が立っており、側のトラックの荷台には河童が二十程乗せられている。親方はさっそく今日の仕事場に向かうといい、助手席に乗るように言った。 目的地は海沿いの田園だった場所だった。背の高い雑草が生い茂り、ひしゃげた車の車体等が放置してあるのが草間からみえた。 河童たちはトラックから降りて、四股を踏みはじめた。相撲をとるわけではなくただ踏み続けている。「お前も四股を踏め」 親方に言われて俺は蹲踞の姿勢をとった。「四股というのは醜のことだ。地面を強く叩き、災厄を招く醜いものを追い出すんだ」 俺は戸惑いつつも河童たちがやっているように、力強く、渾身の力を込めて足で地を叩いた。 地面が柔らかくなり、ふくらはぎまで浸かる。肥溜めの感触と似ていた。銀杏と砂を濃くした臭いがする。 嘔吐した。胃液と未消化のオニギリが地面に滴り落ちたが、ぴちゃぴちゃ舐めとられて跡形も無くなった。「その調子だ。気を抜くんじゃないぞ」 親方は平然と肩を強く叩いた。  今も私は四股踏みをしている。辛いが辞めても後悔するだろう。「昼飯にすっぞ」 親方が声をかける。醜に浸かった足を引っこ抜いた。海水で腐った防砂林がかつての小学校の校庭に積み上げられている。見渡すとこれから踏まなければいけない場所が途方もなく広がっていた。 頬に冷たいものが当たった。雨ではなかった。冬がやってきたのだ。