田中せいや『わっりゅうじん』

 震災後、一時帰宅が許され、群馬の避難所から東北の自宅へ、パパの車で向かった。
「パパ、あれなに?」もうすぐ到着って時、ずっと前方の上空に、蛇のようなものがうねってた。「連凧だろ」すると横で眠ってたじいちゃんが、とつぜん起きて話し出した。
「馬乗りって遊び、知っとるか? 二組に分かれ、一方は一列に並んで前の人の足の間に頭を入れてつながる。もう一方の組は一人ずつその背にとび乗る。全員乗ったら前の人同士がジャンケンする。え、知っとるか。
 あれはわしが小学三年の冬じゃった。昼休みに校庭で馬乗りをやっとった。気づくとわしら、何かに憑かれたようにそこいらの馬の尻に頭つっこんどった。どんどん合体して長くなっていった。驚いて出てきた先生たちも吸い込まれるように馬の尻に頭つっこんだ。校門を出ると前の方が宙に浮いた。先頭はわしじゃった。あわてたのなんの。村中をねり歩いた。村人みんな出てきて尻にひっついた。さいごに最長老の万屋の爺様がひっつくと、全体が浮き上がった。晴れ渡った冬の大空をくねくねと気持ちよく飛び回った。眼下に村が見えた。田畑は荒れていた。その年は台風を三度も喰らって、収穫はさんざんじゃった。みんな落ち込んどった。
 ふと前を見ると、万屋の爺様が誘うように自分の尻を両手で叩いとった。それ見るなりわし、爺様の尻めがけて突進していった。わしの頭が爺様の尻の下に入った。するとどうじゃ、ビビビっと体じゅうに電流が走り、力がみなぎった。そしてわしらに連帯感が生まれた。わしら輪っかは回り続け、翌朝自宅の寝床で目覚めた。その日からみんなで力を合わせ、復興に汗を流した。翌年は豊作じゃった。あとでお年寄りたちが言っとった。あん時、わしら輪っ竜人になったんじゃ、と」
 車が停まり、じいちゃんがドアを開けた。
「さあ急ぐんだ。みんな待っとる」
 僕らは竜人のしっぽめざして走り出した。