蛙『ともだち』

久しぶりに君の事を思い出した。
ずっと昔、この川で魚を捕まえておく囲みを一緒に作った僕だ。君は小さいくせに、大きな石ころを軽々と持ち上げる力持ちだったな。そのくせ、やたらに大人を怖がって、話し声が聞こえると、橋の下にある穴へ隠れていたね。君は言葉が話せなかったから、大きな瞳と鳴き声だけからしか、気持ちが分からず苦労したよ。相撲を取ると、いつも服に緑色のあれがついてしまって、ぬるぬる、べとべとして叱られたね。
あれから僕は友達がたくさん出来たんだぜ。君の事を話した事もある。小さな時に一度、大人になってから一度。おばあちゃん以外は皆、嘘だと言って笑ったよ。もしかすると君の事を知っているのは、もう僕だけかもしれないね。あれからずいぶん経つが、少しは言葉を話せるようになったかな。もしかすると、文字だって読めるようになっているかもしれないから、これを書いて置いておく。ここも大変だったろうが、力持ちの君なら大丈夫だよな。僕は大きくなったし、声も変わったから君は隠れているのかもしれないね。だから、あの時と同じように、この川に石で囲みを作っておく。そうして、橋の下から昔のように君を呼ぶよ。
――古い友人より、名も知らない君へ――