2011-12-30から1日間の記事一覧

アップロード終了のお知らせ

本年も「みちのく怪談コンテスト」にご応募いただき、まことにありがとうございました。以上をもちまして、合計265本すべてのアップロードが終了いたしました。応募してくださった皆さま、読んでくださった皆さまに厚く御礼申し上げます。

蛙『ともだち』

久しぶりに君の事を思い出した。 ずっと昔、この川で魚を捕まえておく囲みを一緒に作った僕だ。君は小さいくせに、大きな石ころを軽々と持ち上げる力持ちだったな。そのくせ、やたらに大人を怖がって、話し声が聞こえると、橋の下にある穴へ隠れていたね。君…

ピエール・西岡『猫神ゆらゆら』

僕は宮城県は西部の田舎町に住んでいる。ここの地元では昔から猫神信仰があって、それは島に伝わる猫神信仰とはかなり違うものだ。 何が違うかと言うと、まず巫女さんがいる事。それに御神体が猫頭のミイラだ、と言う事。 祖父に訊くと、何でも遠い昔にこの…

ピエール・西岡『飛鳥井姫インザドリーム』

「これ、飛鳥井姫じゃないか?」 葦原がまじまじと廊下の壁に掛けられている絵に顔を寄せている。 「おい葦原。恥ずかしいからやめとけ」 庄内が辺りを気にしながら誰もいない事を確認すると空かさず彼の横に並んだ。 二人して、ほぅと息を吐いた。 「飛鳥井…

ピエール・西岡『友人の歯が綺麗だった』

「この近くに、処刑場があるんだ。知ってるか?」 と、友人英介が唐突に言うもんだから僕はふかしてた煙草に咽てしまった。 「知らないよ。急に何の話かと思えば」 「ここはさぁ、打ち首する所だったんだ」 辺りを見回してから英介が、すっと先の何かを指差…

告鳥友紀『リフトに乗る』

岩木山を横目に見て滑走する爽快さを熱く語る友にほだされ、スキーは初心者レベルの私であったが、じゃあ行ってみようという気になった。おまけに頂上からは海が見えるというではないか。 休暇をとり現地に到着した時はスキー日和といっていいほどの天候だっ…

大谷雪菜『老木の記憶』

Y町の鬼穴古墳群は、四方を山や田畑の緑色に囲まれている。まるで時の流れにその身をうずめるかのように、しんと息を潜めている。 友人の家から二十分ほど自転車を走らせた私は、疲れた足を休めようと畦道に自転車を止め、古墳脇の老木にもたれ掛かった。今…

深野ちかる『片目の魚』

M子さんが迷い込んだ山道の朽ちかけた山門がありました。門の上に、がらんどうの鐘楼が載っています。くぐると、境内に細い川が枯れていました。奥にちいさなお堂があります。廃寺かと思っていたのに、ちいさな灯りがともっていました。 お堂の観音開きの扉…

只助『糞くらえ』

適当な木を見つけ、根本に向かって放尿しました。大人二人で抱きかかえてもまだ余るほど、幹の太い木でした。それほど立派な木ですから、かけごたえも一入あり、私は嬉々としてありったけを注ぎました。 事が済むと、じーっと誰かに見られている気がしました…

日野光里『裏灯篭流し』

灯篭流しと言えば、なくなった人の名前を書いて水辺に灯篭を流す儀式だ。 私の町にも、そうやって流す祭りが毎年ある。 けれど、幼い頃の記憶の1ページには、不思議な灯篭流しの場面があった。 大抵は、みんな海へ注ぐ河口近くで、一斉に灯篭を流す。 けれ…

君島慧是『家出の雪花』

篤が家を飛びだしたのは土曜の午後だった。いつも気を利かせる婆ちゃんが「団子作るからクルミ磨ってくれねが」と頼む声が聴こえたが振り返らなかった。洟を啜りながら一本道を駆けて森に入ると、この時期には珍しい雪がちらついた。原生林に降る白は冬に逆…

加楽幽明『月が見ている』

山菜採りの帰りです。後肢をけがしたたぬきを保護しました。家に連れ帰り一週間ばかりけがの経過を見て、山に返しました。山に戻るとき、たぬきは何度もこちらを振り返っては、お辞儀でもするみたいに頭をこくこくと振るのが印象的でした。 その日を境に夜道…

日野光里『女人禁制』

私の中学校は崖の面がむきだしの山が、すぐ近くにあり、それが窓からずっと見えていた。 景勝地と言えないこともないが、山育ちの人間にとっては、よくある光景のひとつだ。 その山に神社があり、毎年男だけの祭りがある。 祭りだけではなく、その神社周辺の…

日野光里『こねる』

とにかくたくさんんの人が入院していた。 ケガをした人もお産をした人も、区別なく寝かせられている。 具合が悪くて入院していた私はお父さんが付き添ってくれてベッドに横になっていた。 ちょうど向い側のベッドでは、お産を終えたばかりの女の人と赤ちゃん…

沼利 鴻『雪の夜 〜年の瀬の盛岡で〜』

私のほかに、客は誰もいなかった。 外には小雪がちらつき、店内には幽かにホワイトクリスマスが流れている。 頬に風を感じると、入口の扉が僅かに開いた。 雪が運ばれ、ひらひらと舞い込んだ。 それきり、ぱたりと扉は閉ざされてしまった。 「雪女かな」 「…