福永緑丸『まいね』

ねぶたを運行する大通りは、開催中の夜は通行止めになるが、最終日は昼の運行のみなので、夜の大通りは通行止め解除となる。
Nさんは、後夜祭の花火大会とは逆方向へ車を走らせていた。さっきまではねぶたが運行していた路上。日も暮れ始め、この活気も今日までか、と寂しくなった。その時。青白い顔をしたハネト衣装の若い男が、車道の真ん中に立っている。片側三車線の大きな道路の中央にぼんやりと立っているのだ。危ない。Nさんは怒りを覚えた。マナーの悪いハネトもいる。道は混んでいて、ゆるゆると動く。Nさんの車が男の真横に並んだ時、Nさんは窓を開けた。一声注意するつもりだった。だが、声をかける前に、男が蚊の鳴くような震える声で「まいねがったじゃあ」と呟いた。男の腕には、どこから繋がっているのか、点滴のチューブが刺さっている。鼻の下にも、頭の上からきた細いチューブがテープでとめられていた。ぎょっとした瞬間、男の姿は消えていた。