福永緑丸『液体』

 M美さんの実家には、オシラサマがある。80cmくらいの高さの薄っぺらいもので、綺麗な布で包まれた中身はただの木の板のようだ。 
 二年前、おじいさんが亡くなって遺産相続で揉めていた頃、それは起こった。
「赤と紫のオシラサマ、神棚の隅に立てて置いてあるんだけど、その紫の方から変な臭い液体が出てきたの」
 神棚に水溜まりのように液体が広がっていた。調べると、紫のオシラサマから染み出しているようだ。雨漏りや配管も疑ったが、それは考えられない。オシラサマを置く場所を変えてもそれは出る。例えるなら、膿のような匂いだという。中の木の板はどうなっていたか聞くと、M美さんは顔をしかめた。
「父が開けてみたの。木の板の顔の部分には、墨で目や鼻が描かれてて、板の下半分が湿って変色してた。でも、木の板を取り替えることはできないの。それがオシラサマ本体だから」
 M美さんは、その後結婚して家を出た。
「液体が出るとね、まるで家の中、馬か牛でも飼ってるみたいな匂いになって、大変だった」
 今でも、液体は出るという。