三和『もう一人の僕』

中学1年生の夏休み、まだ8月になっていなかったと思う。
友人の家で読書感想文の宿題を一緒にやっていると、玄関のチャイムが鳴った。
そのとき友人の家族は留守で、家には友人と僕の二人だけだった。
友人は玄関へと出て行った。僕が原稿用紙にメロスメロスメロス……18回書いたところで、友人は部屋へ戻って来た。
「おーい、開けてくれ」
ドアを開けてやると、右手にお盆にのったコップ二つ、左手にポテトチップス二袋を持っていた。玄関に立ったついでに、台所に寄っておやつを持ってきたのだ。さすが我が友。気が利く奴である。
「誰だった?」
僕が聞くと、友人は
「お前だった」
と言った。それから、
「最近、よく来るんだ」
とも言った。
「うす塩とコンソメ、どっち開ける?」
と聞かれたので、僕が
「どっちも」
と答えると、友人は、
「お前はそういう奴だ」
と笑って、コンソメの袋を勢いよく開封した。
「俺はコンソメ味の方が好きだ」
「だったら聞くな」
やがて蝉の鳴き声が止まった。
日が陰って、友人の六畳の勉強部屋は急に薄暗くなった。
カルピスの最後の一つとなった氷が、小さく弧を描きながらとけていく様を、僕たちは息を殺してじっと見つめていた。