カー・イーブン『遠野オリンピック』

 水泳のK選手は、ぼくくらいの年のころ、夏休みに、家族旅行で、うちの近くへ来たことがあるそうです。ファンレターを送ったら、メールで返事をくれて、メールを返したら、またメールをくれて、教えてくれました。
 K選手がとまった旅館には、裏山がありました。迷子になるから入ってはだめと言われたけど、K選手は、水泳のつぎにカブトムシが好きだったので、朝早くにこっそり山へ行って、迷子になりました。水のながれる音が聞こえたので、川にそって下りたら帰れると思って音のほうへ行ったら、カッパがいて、
「おれより速く向こう岸まで泳げたら帰り道を教えてやる」
 と言った。川の幅は、プールくらいだったから、二十五メートルくらいありました。K選手は必死で泳いだけど、勝てませんでした。プールだったら勝てたのに、と思ったら、そうかもしれないな、とカッパは言って、ひざの使い方をアドバイスしてくれました。うしろを泳いでる人のひざがどうしてわかるのかなと、ふしぎに思ったところまでは覚えているそうです。気がついたら、山の入り口の、大きな岩の上に、ねそべっていました。
 うそみたいでしょ? とK選手は書いてたけど、ぼくは信じます。なぜなら、クワガタをとりに行って、ぼくも同じ体験をしたからです。カッパは緑と思ってたけど、赤っぽかった。泳ぐときはパンツ一丁になったのに、岩の上で目を覚ましたときは、ちゃんと服を着ていました。あの山にそんな川はないと、みんなは言います。でも、かみの毛がびしょびしょでした。
 ぼくはカッパに勝ちました。だから、つぎのつぎくらいのオリンピックで、ぼくは金メダルをとると思います。うれしかったら応援してください。