青山藍明『ケラミノ』

悪い子はいねえか、弱い者いじめをする子はいねえか。鬼の面にケラミノ、ハバキを身につけ出刃包丁片手に家々を回る、なまはげ。あれはきっと、私のお祖父ちゃん。
雪崩にのまれて消えてしまった父さんと母さんのかわりに、私を育ててくれたお祖父ちゃんは、娘が生まれてすぐに亡くなってしまった。
結婚、出産をへて引っ越した先は、家族が憧れていた、高台にある高級住宅街。表向きは上品で優しげだけど、ひとかわ剥けば悪い子だらけ。「あそこの奥さん、みなしごなのよ」と、どこかの誰かに言いふらされて、娘も学校でいじめを受けている。
ああ、隣の家から大声で叫び、逃げ回る足音と、「どうか助けてください」と、泣いて頼み込む声がする。
しかし、外がどんなに騒がしくとも、娘には何も聞こえない。お祖父ちゃんが落としていったケラミノの藁を頭に巻かせて寝かせたからだ。
明日はきっと、雪になる。高い車もオシャレな靴も、埋もれて動けなくなるほどの、白くて重い、冷たい雪が。
お祖父ちゃん、ありがとう。でもほどほどにしてあげて。私も娘も、もうじゅうぶん、胸がスッとしているのだから。