青山藍明『やっと、一緒に』

津軽鉄道線金木駅。降り立つと、春を呼ぶと言われる「こおり雪」がちらついていた。私は木造二階建て、入母屋造りの建物を目指して歩く。そういえば、夫はよく「津軽には、七つの雪が降る」と言っていた。空から舞い落ちる「こおり雪」も、そのひとつに数えられている。
あの日を境に、故郷から東京へと移り住んだ私は、部屋に飾った黒い額縁のなかで微笑む夫の写真を見るたびに、もっと早く、ここに行けばよかったと悔やんだ。
仕事先のある港町から、冷たく白くなった身体で帰宅した夫は、今でも夢の中で、あの場所へ行きたかったと私に話す。
一年経ち、二年経ち、私はやっと腰をあげる気になることができた。夫は読書が好きだった。あの日もやっぱり、片手に文庫本を握りしめていたのだから。
建物の前に立ち、私はふぅとひといきついて、「斜陽館」と書かれた看板を見上げた。右手がじんわりと、温かいものに包まれていく。懐かしい温かさに、つい口元がほころんだ。
「やっと、一緒に……」
耳たぶを撫でるようにして、夫の嬉しそうな声がした。受付では「お二人様ですね」と訊ねられたので、私は頷くと、入場料を二人分支払い、中へ入った。