天羽孔明『巳さんの居る家』

 私の家族は、私と、私の娘と、私の母親と祖母という、女性ばかりの四人家族です。
 私の父親は私がまだ幼かった頃に亡くなったそうです。
 私がまだ小学生の頃、曾祖母はまだ健在で、私はその曾祖母に、なぜ私にはお父さんがいないの? と泣きながら訴えたことがあります。
「我が家は巳様の巫女筋なので、男は長生き出来ないんだよ」
 曾祖母が少し悲しげな顔でそのように答えたのを、今もはっきりと覚えております。
 巳様と言うのは、我が家の裏手にある小さな祠の事で、普段、その扉はかたく閉じられているのですが、曾祖母が亡くなった時、曾祖母の喉仏を祠に納めると言うので、数年ぶりに祠の扉が開かれ、私は初めてその祠の中を見たのです。
 そのときの不気味さは、今も忘れられません。
 祠の中には人頭蛇身の像があり、その像の周囲にはたくさんの小さな遺骨が転がり、さらにその遺骨が風化したであろう白い粉が積もっておりました。
 もちろん、曾祖母の喉仏もまた、同じように祠の中に納められました。

 そんな不気味な因習が嫌で、わたしは大学を卒業すると同時に、同じゼミに所属していた男性と結婚をして東京へと出たのですが、娘が生まれて一年もたった頃、なんの前触れもなく主人に先立たれ、結局は私もまたこの家へと娘と共に戻ることになってしまいました……。